概説
上腕骨外側上顆炎はよく見られる疾病のひとつです。かつての認識では滅菌性の炎症から外側上顆及びその付近の疼痛症候群であると考えられていました。推拿治療、鍼灸治療、漢方薬、局所麻酔薬の注射(3週間)、添え木固定やギプス固定(3~4週間)など様々な治療方法の効果は今ひとつでした。近年、ある人が採用した手術療法は、上腕骨外側上顆の伸筋腱を切断し、剥離を行い治癒率を向上させました。針刀療法は先人の経験をまとめて、かなり簡略化した治療法です。この疾病に対する新たな認識を得て、比較的良い効果を得ました。
解剖
上腕骨の外側上顆は右図のように前腕の背側筋である伸筋群の筋肉が付着していることが特徴です。この他に肘筋という筋肉も付着しています。
病因病理
この疾病を発症するのは日常的に前腕を回内外したり、肘の屈伸をよく行う仕事又はスポーツする人に多く、疲労が蓄積することで引き起こされます。前腕伸筋、全ての指伸筋、回外筋の付着部の筋腱内部に軽度の断裂と軽微な出血があり、組織化し、自己修復過程の中で結節、癒着が発生しその部位の神経と血管を圧迫し疼痛を引き起こします。
触診の時に外側上顆の深部に鋭いエッジがありますが、実はこの鋭いエッジは内部の瘢痕なのです。まさにこれらの瘢痕と癒着はこの部位の血液循環を悪化させ、当該部位の神経や血管を圧迫し、これらの筋肉活動を制限し、腕の機能障害を産生するのです。発病後、患者は往々にして無理に上肢を使い日常生活を自立しようとするため、当該部位の多くの筋肉の断裂が悪化し、関連する神経が引張られ、関連する筋肉が痙攣し、疼痛は前腕や肩に及ぶこともあります。
臨床表現
一般的には発病は緩慢で急性損傷による発病は比較的少ないです。発病後の痛みは肩前部や前腕に及び、局部は時に軽度の腫脹(腫れ)が見られ、前腕の活動後に疼痛が増悪します。握りこぶしを握る動作、前腕の回内外が出来なくなり、握力が低下し重度な場合は手の中に握った物を落としてしまうこともあります。
診断の根拠
1.明らかな外傷の既往が無く、日常的に前腕をよく使う仕事の労作性損傷の既往がある。
2.肘関節の機能は正常だが、前腕回内外機能は制限があり、外側上顆の部位に明らかな圧痛がある。
3.前腕回内外、手関節屈曲テスト陽性
治療理論
針刀医学の慢性軟部組織損傷理論によると、上腕骨外側上顆に付着する筋腱損傷後に癒着、瘢痕、痙縮が引き起こされ、局部の動態平衡失調をきたし、上記の臨床表現を産生します。慢性期の急性発病時、水腫から滲出した液体が末梢神経を刺激して上記の臨床表現を増悪させます。上記の理論によると外側上顆に付着する筋腱である全ての伸筋腱に対して針刀で損傷した筋腱の癒着を解消し、瘢痕を削り、神経と血管の圧迫と局部の動態平衡失調を回復させ、この疾病は根治に至ります。
針刀治療
肘関節は90°屈曲し、机の上に前腕を置いて治療します。刃先のラインと前腕伸筋の筋線維方向と平行にして、針体と机の面は垂直に刺入し外側上顆まで刺入します。まず縦に剥離し、次に切開剥離法を行い鋭いエッジを平らにするよう削ります。その後針体と机の面は45°にして横形削り法を用い、刃先で骨突起周囲の軟部組織の癒着を剥がし、伸筋群と総指伸筋の血流を良くして抜針します。しばらく刺針した部位を圧迫して出血が止まるまで待ちます。外側上顆周辺に局所麻酔薬を1回打つと更に効果が良いです。明らかな炎症性の滲出液が無ければ、局所麻酔薬を打つ必要はありません。5日後、まだ完治していなかったらもう一度治療します。治療は多くても3回を超えないようにします。
おわりに
上腕骨外側上顆炎は通称「テニス肘」とも言われます。上記は針刀の説明ですが、重度な癒着でない限り一般的な鍼(毫鍼)でも十分効果があります。重要なのは問題のある筋肉を特定することです。前腕の伸筋は上図で示したように多くの筋肉が走行しています。どのように触診したら良いのか、とお悩みがある人もいるかもしれません。私はこのように触診しています。おおよそこの辺りにこの筋肉があるかな、と予測して前腕を触り、患者に親指側から手首を曲げてもらったり、小指だけ上に曲げてもらったりして、位置を確認しています。
肘の屈伸プラス手首をひねる動作を生業にしている人に多く、その場合は環境的に外側上顆炎が起こりやすいというのは早い段階で説明するようにしています。
参考文献:
朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002