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北京堂鍼灸伊東

三角筋下滑液包炎の治療法

三角筋下滑液包炎の治療法
目次

概説

 外傷や疲労性損傷で三角筋下滑液包炎を引き起こすことがあります。肩関節周囲炎で三角筋下滑液包炎を伴うこともあります。この滑液包は三角筋の深部にあり、痛点は比較的深く、患者の主訴はあいまいで、触診しても不明瞭です。そのため、肩峰下滑液包炎と誤診されることもあります。三角筋下滑液包が分泌する滑液は主に三角筋下部、棘上筋表面の棘上筋筋膜、並びに棘下筋と小円筋表面の棘下筋筋膜、小円筋筋膜に供給します。三角筋とこれらの筋肉の腱が、摩擦により損傷はしません。
 ひとたび三角筋下滑液包が外傷により損傷を受けると、病変が発生します。これらの筋肉と筋膜が潤滑機能を失うと、肩に重度な不快感が出現します。
三角筋下滑液包炎は、今まで多くの人が誤診され、軽視され、明確な診断をしても有効な治療法は乏しい状況でした。ただ、強い局所麻酔薬の注射で一時的な治療効果はあります。

解剖

三角筋下滑液包は三角筋と肩関節の間にある滑液包です(右図参照)。この滑液包は肩峰下滑液包と通じている場合もあります。

三角筋下滑液包

病因病理

 三角筋滑液包が損傷を受けることで、包壁の膜性通路が自己修復の瘢痕組織による閉塞を受け、膜内の滑液の排出が出来なくなり、滑液が膨満し、重だるい、腫れる、痛いなどの感覚を生じます。滑液の供給が止まることで、棘上筋、棘下筋、小円筋の筋膜へ潤滑が行き届かなくなるので、肩の筋肉は活気を失い、不快感を生じます。

臨床表現

 三角筋下滑液包炎患者の主訴は肩の重だるい痛み、不快感です。上肢挙上、外転が困難です。慢性期になると上肢の活動時に、肩の摩擦音や弾発音があります。

診断の根拠

1.外傷や労作性損傷の既往がある。
2.肩峰下滑液包の下縁、肩関節下縁に摩擦音や弾発音がある。
3.肩関節下縁の三角筋中上部に軽度隆起があり、皮膚につやがある。
4.患者の上肢を能動的に外転してもらうと、肩の疼痛が増悪する。或いはこの動作を行うことを患者が拒否する。

治療理論

 針刀医学の慢性軟部組織損傷の理論によると、三角筋下滑液包の損傷後、滑液包が瘢痕、閉塞し、関節包内外の代謝障害により上記の臨床表現を産生します。慢性期の急性発病時、水腫から滲出した液体が末梢神経を刺激して、上記の臨床表現を増悪させます。上記の理論によると、三角筋下滑液包の損傷は、包壁の膜性通路が瘢痕組織により閉塞されます。針刀を使い、滑液包を切開し、包内の液体を排出すると、この疾病は根治に至ります。

針刀治療

 患者は端座位になってもらい、患側上肢は自然下垂し、前腕は同側大腿部の上に置きます。肩関節外側下縁の明らかに隆起した所に刺針します。刃先のラインと三角筋の筋線維方向は平行にして2cm程度刺入し、骨面まで到達せず、棘上筋と棘下筋腱膜を2,3部位、切開し、抜針します。滅菌ガーゼを被せて、刺針部位を指で圧迫すると、この隆起は無くなるかやや陥凹します。

おわりに

 まず、「三角筋下滑液包炎」という病名は医学書院の「標準整形外科学第13版」に記載がありません。ということは、日本国内の医療機関はこの病名、病態に関してほぼ知られていないと思われます。これだけでも上記の内容は役に立つ内容かと思います。
 上記解説では針刀を使っていますが、一般的な鍼でも十分効果があります。ただ、慢性化している場合だと太めの鍼(0.35mm,0.4mm)という貫通力が強い鍼が必要になります。上記解説では「骨に到達せず…切開する」とありますが、実際の臨床では上腕骨に当たることもあります。肩峰下滑液包と繋がっていることもあるので、三角筋下滑液包炎+肩峰下滑液包炎もありうることを念頭に評価、治療を行うと良いと思います。

参考文献:朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002

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