解剖
橈骨神経管症候群はよく見られる疾患で、背側骨間神経圧迫症候群、回外筋症候群とも呼ばれます。
橈骨神経管症候群の多くは橈骨の中下部で発生します。橈骨神経は上腕骨外側上顆から近位10cmの所で、後方から前に外側筋間を貫き、腕橈骨筋と上腕二頭筋、上腕筋の間を走行し、橈骨頭掌側に巻き付き、フローゼ弓を経由し回外筋の深、浅層の間に入ります。腕橈骨筋は橈骨神経管の側面全体を形成します。遠位端の前外側には長橈側手根伸筋と短撓側手根伸筋があり、内側は上腕二頭筋と上腕筋で構成されています。この管内の橈骨神経は腕橈骨筋、上腕筋、長撓側手根伸筋の神経枝を出しています。橈骨神経は腕橈関節の上下3cmの区域で深、浅層に分かれます。則ち後骨間神経(橈骨神経深枝)と橈骨神経浅枝です。深層枝は運動枝で浅層枝は感覚枝です。この2つの神経枝は腕橈関節と橈骨輪状靭帯の前方を下降し、橈骨頭下縁を通り、短撓側手根伸筋の起始部に覆われています。
この筋肉の起始部はアーチ形で、その端はほとんどが腱状で、アーチの外側半分は回外筋弓の外側半分からやや内側にあり、後者を覆っています。内側半分のアーチは外側の多くと平らになり、圧迫の解剖学的基礎になります。後骨間神経(橈骨神経深枝)は回外筋の深、浅層の間を通ります。この後、2つの組織に分かれます。一つは内側枝で、前腕浅層の筋肉(総指伸筋、尺側手根伸筋、小指伸筋)を支配します。もう一つは外側混合枝で、深部筋肉(母指外転筋、長母指伸筋、短母指伸筋、示指伸筋)を支配します。
1908年、ドイツの解剖学者であるフローゼは、回外筋層近位に半円形の線維組織がアーチを形成すると発表しました。これは上腕骨外側上顆から起こり、下に向かい1cmの所で折り返し上に向かった辺りの上腕骨外側上顆の内側部分で、即ち上腕骨小頭の外側縁で、回外筋腱或いはフローゼ弓となり、牽引や圧迫を受けやすいのです。
橈骨神経圧迫に関わる筋肉の起始停止は以下の通りです。
起始 | 停止 | |
回外筋 | 上腕骨の外側上顆 肘関節包の後面 肘関節の撓側側副靭帯 橈骨輪状靭帯 | 橈骨の外側面 橈骨前面の近位1/2 |
長撓側手根伸筋 | 上腕骨外側縁の遠位1/6 上腕骨の外側上顆 外側上腕筋中隔 | 第2中手骨底の背外側面 |
短撓側手根伸筋 | 上腕骨の外側上顆 橈骨輪状靭帯 総指伸筋との間の腱膜 | 第3中手骨底の背外側面 |
腕橈骨筋 | 上腕骨外側縁の遠位1/3付近 外側腕筋間中隔 | 橈骨前面で茎状突起近位部 |
病因病理
1)橈骨神経の深枝(後骨間神経)は回外筋弓と短撓側手根伸筋弓を通過しており、その下の層は薄い深部回外筋組織と橈骨であり、ここで骨と腱が固定されています。労作性損傷が生じた場合、回外筋弓および撓側手根伸筋の起始部で橈骨神経が覆われ、腱部の癒着や結節が神経を圧迫し、症状が起こります。
2)解剖に基づくと、手関節掌屈、前腕回内、こぶしを握る時に橈骨神経の浅枝が緊張し、手関節を背屈し前腕を回外して指を伸ばすと神経が弛緩します。そのため、特に職業上、手関節を長時間繰り返し動かす場合、長時間繰り返される牽引や摩擦により、橈骨神経浅枝が損傷する可能性があります。また、局所的な外傷や捻挫により、橈骨神経浅枝と隣り合う筋腱、深層筋膜の癒着が悪化する場合があります。両側の腱と深筋膜がさらに活動を低下させ、疾病を誘発します。
臨床表現
1)肘と肘の前外側の近位伸筋群の痛みです。その痛みは近位、遠位端へ放射状に広がることがあります。疲労が蓄積した後、症状が悪化し、休憩しても軽快せず、夜間痛みで目が覚めることがあります。
2)発症時、握力は減弱し、徐々に指の伸展、母指の伸展、外転の力が減弱或いは消失します。主に指を真っすぐ伸ばせず、45度伸展すら困難で指節間関節を真っすぐ伸ばすのは障害がありません。
診断
1)長期の労作性損傷の既往がある。肘関節外側の灼熱痛、ピリピリした痛み、針で刺されるような痛みがある。
2)肘関節の橈骨頭の所、フローゼ弓に相当する部位に圧痛がある。長・短撓側手根伸筋に圧痛があり、橈骨頭の遠位に橈骨神経深枝が通る回外筋の所に痛みがある。
3)肘関節の屈曲、前腕回内、こぶしを握る時に疼痛が悪化する。筋肉牽引試験は陽性。
4)後骨間神経(橈骨神経深枝)が支配する筋肉の麻痺。筋力の減弱、或いは消失が起こる。握力、手関節伸展筋力の減弱が起こる。及び指の伸展、母指の伸展外転の脱力が起こる。尺側手根伸筋の麻痺が起こり、こぶしを握ると撓側へ変位する。回外筋の麻痺が起こり、回外動作の脱力が起こる。「手指は下垂するが、手関節は下垂せず、筋肉の力は麻痺するが感覚は正常」といった徴候がある。
5)筋電図検査では母指伸筋と指伸筋の伝導速度は低下することがある。指伸筋は線維けいれんが出現する。レントゲン検査でモンテジア骨折があることがある。骨折がこの病因になることがあるが、この治療法の範囲内ではない。
治療法
1)治療部位
a点:肘関節の橈骨頭の部位の疼痛性結節点
b点:回外筋弓の疼痛性結節点
2)治療法
患者はベッド上仰臥位(あお向け)で、通常の消毒を行い、上記の方法で治療します。
刺針深度は0.5cm、筋膜結節を切り、治療後は綿球で1分圧迫します。
おわりに
文章の中で橈骨神経を圧迫する筋肉として、回外筋、長・短橈側手根伸筋、腕橈骨筋を挙げましたが、橈骨神経深枝は回外筋の中を貫通して走行していることから、私は回外筋の問題をまず疑います。回外筋は深部にあり表層には腕橈骨筋、長・短橈側手根伸筋、総指伸筋などがあり、表層筋の緊張が強いと触診で回外筋の状態を評価するのは困難です。
そのような時は、表層、深層ともに治療して、針の抵抗や得気があるかどうかで問題点を絞っていきます。
参考文献:
河上敬介 他,改訂第2版 骨格筋の形と触察法,大峰閣:2013
胡超伟,超微针刀疗法,湖北科学技术出版社:2014