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北京堂鍼灸伊東

癒着の本質

癒着の本質

 

目次

序論

 軟部組織の癒着という概念は我々理学療法士や鍼灸師の中で近年、認知されてきました。国内の病理学のテキストで「創傷治癒のプロセス」という項目に目を通しましたが、軟部組織の癒着という内容はありませんでした。「解剖・動作・エコーで導くFasciaリリース」という書籍で少し触れていますが、癒着の概念を理解するには不十分のように感じました。以下の文章を読むことで癒着に関しての理解が深まるかと思います。

 癒着は一つの病理概念であり、生理概念ではありません。正常の人体の筋肉は皆、骨の上に付着していますが、これはいずれも著者がいう癒着ではなく生理現象です。著者がいう軟部組織の癒着は外傷や疾病により破壊された軟部組織が修復過程のなかで産生された癒着なのです。軟部組織の癒着は大きく2つに分けられ、1つは外傷性の軟部組織の癒着、2つ目はある種の疾病で破壊された軟部組織が引き起こす癒着(以下病理性軟部組織の癒着という)です。

著者:朱汉章

外傷性の癒着

 各種異なる外力が人体に作用し、皆異なる程度の筋肉、血管、神経、靭帯などの軟部組織の損傷は軽微な外傷であっても筋組織や毛細血管は一定程度の破壊、断裂、出血を伴い、これらに対して人体は修復を行います。修復過程の中で一定の条件下で軟部組織同士が接着し、軟部組織の癒着を形成します。これらは当然目で見えるものではありません。
 著者は軟部組織外傷性損傷を暴力損傷、蓄積性損傷、隠蔽性損傷、疲労性損傷、自重性損傷、感情性損傷の6つに分けています。
 暴力外傷は人体に対する明らかな外力が加わることを指し、骨折、脱臼、筋肉、皮膚の断裂を発生させます。これらの損傷が軟部組織を破壊することは明らかで、治療や回復過程の中、一定の要素、影響の下で骨格、筋肉、血管、神経、腱膜、筋膜、臓器の間に癒着が発生します。
 蓄積性損傷も同様に筋線維、毛細血管、靭帯の軽度な断裂や出血を伴い、このため同様に人体の修復を行っている中で痂疲や癒着が発生する。過去に筋肉の疲労性損傷や臓器損傷の後遺症などの疾病があった場合、この実質的な原因は大部分が※痂疲や癒着により治癒しにくくなっているのです。
 隠蔽性外傷は軽微な外傷を受けることを指し、医者や患者は注意を払いません。
 疲労性損傷、自重性損傷は蓄積性損傷に似た状態を引き起こします。
 感情性損傷は直接的な暴力損傷と似た状態を引き起こします。

※痂疲:かさぶたのこと

病理性軟部組織の癒着

 病理性軟部組織の癒着は、病理性損傷、侵害性損傷、環境性損傷、手術性損傷の4種類に分けられます。
 病理性損傷と侵害性損傷が作り出す軟部組織の癒着は、ある種の疾病により元々の筋線維や毛細血管、靭帯、筋膜、臓器が破壊されます。人体のどの部位に損傷や破壊を受けても、どの部位であっても修復され、これは自然現象です。修復過程の中で一定の要素の影響で(例えば過度な活動や運動不足、2つの臓器が隣接している、1つの臓器の中に隣接する組織構造がある、病変部位が骨面にへばりついている等の原因)、痂疲や癒着が起こります。この種の癒着を著者は病理損傷性癒着といいます。リウマチ、皮膚潰瘍、吹出物、感染性疾患などがこれに当たります。
 環境性軟部組織損傷と手術性軟部組織損傷の癒着は、環境により作られた損傷、或いは手術切開され作られた損傷で癒合過程の中で一定の要素が癒着を発生することに影響を与え、その発症メカニズムは上記で述べたことと同じです。

癒着の表現分類

 癒着は一部の軟部組織損傷、或いは術後組織が癒合する時の必然的に起こる修復過程で、それは人体の自己修復の生理機能です。しかし、いかなる物事も皆2面性があり、急性・慢性損傷後、障害を受けて組織の中に癒着、瘢痕、痙縮が形成されると、しばらくこの癒着と瘢痕は組織や器官の機能に影響を与えかねず、神経や血管を圧迫し関連する組織や器官の機能障害を発生させます。このことで一連の臨床症状を引き起こすのです。この時、癒着が人体の自己修復機能を上回ると、慢性軟部組織の病理要素となります。癒着の表現形式は8種類あります。

1.筋周膜間の癒着

 正常な場合、それぞれの筋肉が収縮する時、全ての筋線維が全て同じ活動に参与するわけではなく、ある部分は弛緩し、ある部分は収縮します。このように交互に活動することで筋張力を保持出来ているのです。仮に筋肉に損傷があったら、筋束間に癒着が発生し、筋束間にすぐ感覚異常或いは運動障害が発生します。筋肉内では線維化や結節といった病変が発生することがあります。この種の状況は単一の筋肉組織の筋腹部の損傷で多く発生します。

2.筋外膜間の癒着

 これは隣接する筋外膜間の癒着を指します。仮に2つの筋肉の筋線維方向が同じで、かつそれが協同筋間の癒着であったら、明確な運動障害が起こることは少なく、比較的重い症状は呈しません。仮に2つの筋肉の筋線維方向の向きが異なっていた場合、1つの筋肉が収縮する際、この癒着は収縮する筋自体と隣接する筋の活動に影響を与え、正常な機能を妨げ、圧痛や線維化、結節などの変化がみられます。例えると上腕二頭筋短頭と烏口腕筋の癒着が挙げられます。

3.筋腱間の癒着

 例えると橈骨茎状突起部の筋腱炎は長母指外転筋と短母指伸筋の癒着が挙げられます。

4.腱周囲構造間の癒着

 腱周囲の構造は包括的に腱の周りの柔らかい結合組織、滑液包、脂肪体、軟骨などの組織を指します。これらは腱末端の組織構造を保護して、筋腱末端が損傷を受けた時、出血や滲出、水腫などの無菌性炎症が原因で腱末端、腱周囲組織の緊密な癒着が発生します。

5.靭帯と関節包の癒着

 関節周囲は多くの靭帯が互いに連なり存在しています。靭帯と関節包は癒着状態を呈し、分けることは不可能で一体となっています。他の部分は相対して独立しており、順序は明らかです。それらは各自独立した運動軌跡を有し、それらが損傷すると関節包と靭帯の間、靭帯と靭帯の間に癒着が発生します。例えば足関節創傷性の関節炎の場合、外傷から足関節包と三角靭帯、踵腓靭帯の癒着が起こります。

6.筋腱、靭帯と骨付着部間の癒着

 筋腱と靭帯はいずれも骨面に付着し、ある筋腱は骨線維管を走行し筋腱、靭帯の遊離部が損傷された時、筋腱と靭帯の起始停止部、骨線維管に癒着が発生し、関節運動に影響を与え、関節運動障害となり一連の症状が発生します。例えば肩関節周囲炎では肩関節周囲の上腕二頭筋短頭の起始部、上腕二頭筋長頭が通る結節間溝部、及び腱板周囲の起始停止部間の癒着により、肩関節機能障害が発生します。

7.骨間の癒着

 これは骨と骨の間の隣接した筋膜、靭帯、線維組織間の癒着です。例えば、脛骨腓骨間膜の癒着、橈骨尺骨間膜の癒着、手関節内部靭帯隣接部の癒着です。

8.神経と周囲軟部組織の癒着

 神経と周囲の軟部組織の間で、神経走行周囲の軟部組織と癒着が発生します。癒着は神経への圧迫力を産生します。例えば、神経圧迫症候群、頚椎疾患、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、梨状筋症候群などの疾病の症状はこのような理由により発生します。

癒着の本質

 ここで強調しておきたいのは、発生する癒着部位が皆臨床症状が出現するわけではなく、著者の臨床における考えでは癒着は人体の活動性が比較的大きかったり、運動の度合いが比較的大きい部位に容易に症状が出現します。例えば、四肢、背部、腰部、関節周囲に癒着があると症状が出現しやすく、頭部、顔面、腹部の筋肉は比較的症状の出現は少ない。著者の研究によると「癒着」この一つの病因は広範囲にあり、よく見られる四肢、体幹、腰背部の損傷性の内科外科等の疾病の中で、この類の疾病で重要な病理要素は、特に古くから頑固な難治疾患の中で多いのです。
 癒着は通常、直視で見ることは不可能で、実験室で測定器を使った検査でも調べる方法がありません。更に医学文献でこのような病理要素に関する情報は不足しており、日常に臨床で明らかな治療法が無かったのが現状です。

著者:朱汉章

癒着の診断

 広く存在する慢性の四肢、体幹、腰背部の損傷性内科疾患の癒着に対して重要なのは病理要素をいかに正しく診断するか、というのが一つの重要な問題になります。正確な診断なしに正確な治療は不可能なのです。著者の理解に基づけば診断はそれほど難しくありません。癒着発生メカニズムを正しく理解し、以下の点をマスターすれば正しい診断が可能になります。

1.外力による損傷と病理損傷の既往歴がある
2.他の原因を排除できる
3.牽引すると疾病範囲の筋肉に感覚障害がある
4.患側肢、或いは体幹を動かすと完全な動作が不可能で疼痛が増悪する
5.内臓の活動で症状が重くなる

この5点を基に癒着の診断を行います。

参考文献
朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002
吴绪平,针刀医学临床研究,中国中医药出版社:2011

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