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上腕二頭筋長頭腱炎の治療法

上腕二頭筋長頭腱炎の治療法
目次

概説

 上腕二頭筋長頭腱炎はよく見られる疾病の一つで、患側上肢で物を持つ動作や外転動作に影響を与えます。この疾病の発病は緩慢で多くが摩擦による労作性損傷をきたし、慢性化すると治りにくくなります。かつては非外科的治療の効果が悪く、手術で上腕二頭筋長頭腱を結節間溝内で切断し、その末端と上腕二頭筋短頭を縫合していました。術後、上腕二頭筋長頭腱が結節間溝内での摩擦が無くなり、症状は消失しました。しかし術後の患側上肢の筋力は術前より低下してしまいました。

解剖

 上腕二頭筋長頭は肩甲骨の関節上結節に付着しています。細長い腱は腱鞘に包まれて肩関節を経由して上腕骨の結節間溝を下降します。上肢を動かす時に長頭腱は腱鞘内で上下に滑動します。
 上腕二頭筋長頭の近位1/3は起始腱のみで構成されているように見えますが、小結節の遠位から約2.5cm遠位方まで筋束が存在します。
 上腕二頭筋は烏口腕筋、円回内筋、撓側手根屈筋、長掌筋、尺側手根屈筋、深指屈筋、浅指屈筋、小胸筋と連結しています。

上腕二頭筋長頭

病因病理

 上肢を動かす時、上腕二頭筋長頭は腱鞘内で上下に滑動する以外に、肩関節の外転という前額面(横向き)の運動に関与します。しかし、腱鞘が結節間溝内で固定されると、大結節と小結節が動きを制動し、上腕二頭筋長頭は元々の位置から離れることが出来なくなり、このことが原因で横方向の応力による損傷と摩擦力による損傷を引き起こします。
上腕二頭筋長頭腱炎は実質的にひとつの慢性疾患です。ただ上肢のオーバーユースで急性発作を引き起こす時に、炎症反応も引き起こします。
 慢性損傷により腱障壁の層は肥厚し筋腱自体の労作性損傷による変性が起こり、腱鞘は相対的に狭窄し腱鞘内の活動が制限され発病します。急性損傷があった時に本症が引き起こされ、急性期を過ぎると慢性疾病となります。

臨床症状

 発病初期は患側上肢を活動する時、肩の前面内下方、おおよそ肩峰の下3cmの部位で上腕骨結節間溝に相当する部位に痛みや不調を訴えます。発症から月日が経つと、症状は漸次増悪し、疼痛ははっきりとして上肢の活動制限が起こり、患側上肢で物を持ったり外転、内旋時に症状は増悪し、時には局部の軽度な腫脹を伴うこともあります。

診断の根拠

speed test

1.Speed test陽性(左図参照)
スピードテストは座位で前腕を回外位で肩関節を軽度屈曲し、検者はこれに抵抗を加え(赤矢印)、結節間溝周辺で疼痛があるか確認する。検査は両側同時に行い筋出力や疼痛の有無を確認する。

2.既往歴で労作性損傷や外傷がある。

3.肩前面内下方約3cmの部位に疼痛、圧痛がある。

4.能動的に肘関節の屈曲、肩関節内外旋で疼痛が増悪する。

5.他の疾患を除外できる。

治療理論

 針刀医学の慢性軟部組織損傷理論によると、上腕二頭筋長頭腱鞘の損傷は癒着、瘢痕、痙縮を引き起こし、腱鞘内外の動態平衡失調を発生させ、上記の臨床表現を産生します。慢性期の急性発病時、水腫から滲出した液体が末梢神経を刺激して、上記の臨床表現を増悪させます。上記の理論によると、上腕二頭筋長頭腱鞘の損傷部位は、上腕骨の結節間溝であり、腱鞘内の上腕二頭筋長頭の狭小化した腱が、上肢の活動時に長頭腱が腱鞘内で上下に滑動します。針刀を用いて狭窄した腱鞘の癒着を解消し、瘢痕を削り、上腕二頭筋長頭の動態平衡失調を回復させ、この疾病は根治に至ります。

針刀治療

 圧痛点に刺入します。刃先のラインと上腕二頭筋長頭の方向は平行にして、針体と刺入部位平面は垂直に刺入し、骨面に到達すると、まず縦に剝離し、次に横へ剝離します。もし硬く弾力性のある組織があったら、切開剥離します。

おわりに

 この項目で重要なのは、結節間溝内の腱鞘が肥厚し狭窄することで異常な応力が発生して、組織の癒着や瘢痕が起こるという点かと思います。
 そこで重要なのが、骨のランドマークである大結節を触診できるかという点です。大結節の上には回旋筋腱板である棘上筋、棘下筋、小円筋が付着します。更にその表層には三角筋があります。筋層が厚いので大結節は触知しにくいのです。右図を見て下さい。図は前面上方から見た左上腕骨です。大結節が外側にある時は外側上顆も外側にあります。外側上顆はほとんどの人で触知できるので、外側上顆が分かれば大結節の向きがおおよそ推定できるのです。骨模型を持っている方は模型で確認してみてください。これを知っているだけで、だいぶ評価のスピードが上がります。

大結節触診のポイント

参考文献:
河上敬介 他,改訂第2版骨格筋の形と触察法,大峰閣:2013
林典雄,運動器疾患の機能解剖に基づく評価と解釈,運動と医学の出版社:2017
朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002

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