概説
上腕二頭筋短頭腱炎はよく見られる疾病です。上腕二頭筋は上肢の屈筋腱で、上肢を頻繁に屈伸、回外動作で労作性損傷をきたします。上肢の屈伸と前腕の回内外動作が最も多く起因し、ゆえにこの疾病は発症率が高いのです。肩関節周囲炎と誤診されやすいです。強い局所麻酔薬が効くこともありますが、はっきりと効果がみられないことも多いです。
解剖
上腕二頭筋は織物部品のシャトルのような形をしており、起始部は2つの頭があり、長頭の長頭腱は肩甲骨の関節上結節から起こり、肩関節包の上、結節間溝を経由し下降します。上腕二頭筋短頭は肩甲骨の烏口突起から起こり、烏口腕筋の外上方、上腕骨の下1/3の部位で長頭の筋腹と融合し1つの腱となり、橈骨粗面に停止します。主な機能は肘の屈曲と、前腕が回内位にある時、回外します。この他に両頭が働くと肩関節屈曲の補助筋となります。
病因病理
上腕二頭筋短頭と烏口腕筋の起始部は隣り合っており、上腕二頭筋短頭と烏口腕筋の作用は異なりますが、走行はおおよそ一致しています。烏口腕筋は肩関節の内転、屈曲に作用し、上腕二頭筋は肘の屈曲と前腕回外に作用します。したがって烏口腕筋腱は常に交錯し摩擦を受けるのです。もし、突然肘を曲げたり、前腕の回外動作で容易に筋腱を損傷します。その他にもし烏口突起滑液包と烏口腕筋滑液包に閉塞する病変があったら、烏口腕筋と上腕二頭筋短頭との滑走が出来なくなり、上腕二頭筋短頭はすぐに摩擦により発病します。上腕二頭筋短頭が損傷後、局部の瘢痕や癒着が起こり、局部の血流、体液の新陳代謝産生が障害され、筋腱部位の変性を引き起こします。
診断の根拠
1.労作性損傷の既往がある、必ずというわけではないが、外傷の既往がある。
2.上肢の伸展、背中を触る、挙上動作の制限がある。
3.烏口突起に疼痛や圧痛がある。
4.肩関節周囲炎、その他の軟部組織損傷疾患との鑑別に充分注意する。
治療の根拠
針刀医学の慢性軟部組織損傷の理論によると、上腕二頭筋腱損傷後に癒着、瘢痕、痙縮が引き起こされ、局部の動態平衡失調を形成し、上記の臨床表現を産生します。慢性期の急性発病時、水腫から滲出した液体が末梢神経を刺激して上記の臨床表現を増悪させます。上記の理論によると上腕二頭筋短頭腱損傷の主な部位は烏口突起の付着部位、烏口腕筋外上方部、小胸筋外側部の付着部位です。針刀を用いてその付着部の癒着を解消し、瘢痕を削ると、局部の動態平衡失調を回復させ、この疾病は根治に至ります。
針刀治療
患者を仰臥位(あお向け)に寝かせ、患側上肢と体幹は30°にします。痛点(多くは烏口突起)を刺鍼部位として、刃先のラインと上腕二頭筋短頭の走行ラインと平行にして刺入し骨面まで刺鍼します。まず縦に剝離し、次に横へ剝離します。もし瘢痕が比較的重度であったら、剥離を2回行う場合もあります。
おわりに
上腕二頭筋の炎症として標準整形外科学第13版に記載されているのは「上腕二頭筋長頭腱炎」です。上腕二頭筋短頭腱炎という診断名は中国の書籍を読むまで聞いたことがありませんでした。しかし、よく考えれば長頭に炎症が起こり、短頭に起こらないわけがありません。
この項目で重要なことは起始部である烏口突起での癒着や瘢痕が起こりやすいということです。左図を見て各筋の位置関係を確認しましょう。上腕二頭筋短頭と烏口腕筋は烏口突起の外側に付着しています。烏口突起を触れるには、鎖骨を確認し鎖骨の外側から下方へ2,3横指辺りで触知できるかと思います。
一般的な鍼(毫鍼)でも奏効することが多いです。体表から烏口突起を確認して、烏口突起の外下面を狙って刺鍼することがポイントになってきます。
参考文献:
河上敬介 他:改訂第2版 骨格筋の形と触察法,大峰閣:2013
朱汉章:针刀医学原理,人民卫生出版社:2002