解剖
手根管は手関節掌側の骨性線維管です。その3面は骨で、1面は靭帯です。手関節横紋の遠位から始まり、そこから約4cm遠位で終わります。橈骨側には舟状骨と大菱形骨があり、尺側側には豆状骨と有鈎骨があり、背側には舟状骨、月状骨、頭状骨、大菱形骨があり、掌側には横手根靭帯があります。合計9本の腱と正中神経及びそれに付着する動脈が手根管を通過します。
正中神経は筋腱と横手根靭帯の間に位置し、短母指外転筋、母指対立筋、短母指外転筋の浅頭、第一、第二虫様筋などを支配します。正中神経の感覚分布は包括的に手掌の撓側半分と母指、示指、中指と環指の撓側半分とこれらの手指の遠位側の指節間関節から指先背側です。正中神経には豊富な交感神経線維が含まれます。圧迫を受けると灼熱性疼痛と栄養不良による変性が起こる場合があります。
通常の状況では、手根骨の骨構造は比較的固定されています。手根管症候群における挫傷は、ほとんどが前側の軟部組織で発生します。横手根靭帯の緊張がかなりの割合を占めます。靭帯は豆状骨と有鈎骨のかぎ状部分から立ち上がり、アーチ状に橈骨側に達し、深層と浅層の2層に分かれています。深層は大菱形骨の内縁に付着し、表層は大菱形骨に付着します。長さは2.5~3cm、幅は1.5~2cm、厚みは中央で最も厚い部分で2mmです。その下方には筋腱、神経、血管がかなり密に配列し、そのため、手根管の小さな変化や内容物の増大する要素は、容易に正中神経の圧迫を引き起こします。
手根管の大きさや正中神経が圧迫されるかどうかも、手関節の活動により変化します。手関節が正中位にあるとき、各腱は弛緩した状態にあり、その体積は最も大きくなりますが、手関節を掌屈すると小さくなります。手関節を背屈し、指を曲げるよう力を入れると、正中神経は靭帯と指屈筋腱の間で弛緩しますが、手関節を掌屈し指を曲げるように力を入れると、正中神経は圧迫されます。
病因病理
1)手根管容量の減少:正常な状況下では、屈筋腱は手根管内で一定の容量を有しており、正中神経の機能に影響を与えません。容積現象を引き起こす要因は、手関節の労作性損傷、或いは手の外傷により横手根靭帯の肥厚や月状骨の前方脱臼、手根管内の骨質増殖、屈筋腱の痙縮や癒着、及び手関節骨折、過度の掌屈位固定などです。
2)手根管内容物増加:手根管の骨構造は比較的安定しており、横手根靭帯は弾性に欠け、手根管内容物が増加すると正中神経の圧迫を引き起こしやすくなります。例えば、手根管には脂肪腫や腱鞘嚢腫がある、或いは外傷が原因で手根管内の内出血を引き起こし、正中神経鞘内に血種や尺側偏移により血種を生じることがあります。妊娠、授乳、更年期障害などが原因で筋腱、骨膜、神経などの構造が炎症或いは水腫を引き起こし、内圧増加を生み出します。
上記の2つの主な原因により、正中神経の一時的または永続的な圧迫性虚血が生じると、神経の浮腫や充血が現れ、更に横手根靭帯近位側の偽性神経腫、遠位側に萎縮変性が現れます。時間が経過すると、虚血により神経内線維化が起こり、ミエリン鞘が消失し、最終的には神経幹が線維組織に変性し、神経内管が消失してコラーゲン組織に置き換わる不可逆的な変化となります。
3)横手根靭帯損傷により手根管内の血管が圧迫され、手掌全体の血流障害が起こり、特に寒い時期には外気温の低下により血管自体が収縮し、血流障害が生じ、横手根靭帯の損傷と圧迫により更に血液供給が妨げられ、指が冷たくなったり、爪が青白くなったりします。
4)横手根靭帯の損傷により、手根管内の屈筋腱が圧迫され、腱内の腱鞘液の移動が阻害され、腱鞘が炎症を起こし、指節間関節の屈曲・伸展障害が生じることがあります。
5)横手根靭帯の機能は主に、手関節を通過する筋腱、神経、血管の機能を制限と保護することです。仮に制限が過度だと相応の症状を引き起こします。制限が過度だと損傷後、けいれんして縮む変化を引き起こします。一般的な医師は、横手根靭帯が手根側を圧迫する神経症状しか注意を払わず、血管や屈筋腱が産生する症状に注意を払いません。実際は横手根靭帯が背側の伸筋腱を圧迫することもあり、あらゆる伸筋腱が通過する手指関節の痙攣が引き起こされます。往々にして手指関節の痛みは関節リウマチの関節炎と誤診されます。内科第5版の教材によると、関節リウマチの7つの診断基準のうち、診断できるのは4つだけです。横手根靭帯が損傷し、伸筋腱が圧迫された時に生じる小さな関節痛、3つ以上の関節の痛み、6週間以上続く痛み、朝の指のこわばりなどの症状はすでに7つのうち4つを満たしています。そのため誤診される症例が多いのです。横手根靭帯をゆるめるだけで、背側の損傷は治療できます。
臨床表現
1)この疾患は40歳以上の女性に多く、男女比は1:2~2.5です。始めは指先の感覚障害として現れ、その後撓側3本の指、特に中指にヒリヒリしたり焼けつくような痛みや痺れが現れます。症状が5本の指に波及すると、夜間に症状が出やすく、しびれて目が覚めると、揉むことにより軽快します。
2)末期には、正中神経の皮膚感覚が減弱ないし消失し、母指の外転、指屈筋の脱力、巧緻動作障害、母指球筋の萎縮が起こります。
3)まれに神経の栄養不良性変化に進展することがあります。例えば母指、示指のチアノーゼ、指先の壊死、間欠的な蒼白、チアノーゼ、萎縮や潰瘍です。
4)手指が冷えると蒼白、麻痺、活動不良が起こります。指先の触覚は減弱します。
5)指節間関節の痛み、屈伸の活動低下、起床時の指の腫れ、朝のこわばり。
6)母指と他の4本の指の中手指節関節(MP)に結節や圧痛が触知され、指を動かすとポキポキ鳴ったり、指の屈伸が困難になったり、指を真っすぐ伸ばすのも困難になります。上記の症状は母指に最も多く、次に示指と中指の中手指節関節(MP)が続きます。
診断
1)局部の損傷の既往、或いは労作性損傷の既往がある。
2)手関節のこわばり、手関節を曲げると(屈曲すると)手掌の痛みや麻痺が増悪する。
3)正中神経支配領域に麻痺、痛みがある。母指球の萎縮、撓側3本の指先に感覚障害がある。
4)横手根靭帯の起始停止部を押すと、横手根靭帯の近位外縁に疼痛性結節がある、或いはを指で正中神経の部位を叩くと正中神経支配領域に放散痛がある。
5)手根管圧迫試験陽性:手関節を掌屈すると同時に手根管外側の正中神経を1~2分圧迫すると、手のしびれ、痛みが増悪し、示指や中指に及ぶこともある。
6)手掌屈試験陽性:急に手関節を掌屈すると1分以内に麻痺やしびれが出現する。
7)X線検査:手の骨関節損傷後に手根管症候群が疑われる時は、X線検査を行い、骨構造を明らかにして、構造的に手根管が狭窄して圧迫を引き起こしていないことを確認する。
治療
掌を上にして治療台の上に置き、手関節を薄いクッションの上に置きます。患者に拳を握ってもらい手関節を掌屈してもらいます。すると、手関節の掌側の皮下に3本の隆起があります。中央が長掌筋腱、橈側が撓側手根屈筋、尺側が尺側手根屈筋です。手関節横紋線の尺側手根屈筋の内縁が1つ目の刺鍼部位です。尺側手根屈筋内縁に沿って遠位側に2.5cm移動した部位が2つ目の刺鍼部位です。手関節横紋線の撓側手根屈筋の内縁が3つ目の刺鍼部位です。撓側手根屈筋内縁に沿って遠位側に2.5cm移動した部位が4つ目の刺鍼部位です。針体は手関節平面に対して90度で、両側の屈筋腱内側縁に5mm程度刺入します。尺側、撓側動静脈と神経は避けなければいけません。横手根靭帯は2.3mmの切開で分けられます。
参考文献:胡超伟,超微针刀疗法,湖北科学技术出版社:2014
朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002