概説
帽状腱膜の痙縮は頭部表層の損傷後、組織が修復する中で帽状腱膜に発生した瘢痕化した痙縮です。この疾病は様々な頭部の不快な症状を発生させます。
この疾病はかつて明確な診断はされませんでしたが、針刀医学は慢性軟部組織損傷の病因病理に対して新しい知見を得てからは、徐々にこの疾病のメカニズムが明らかになりました。
解剖
皮膚は大量の毛嚢と汗腺、皮脂腺を含み、ここは腫れ物や皮脂腺嚢腫の好発部位です。
浅筋膜は緻密な結合組織と脂肪組織で構成され、多くの結合組織の小柱は皮膚と帽状腱膜と相連なり脂肪組織によって構成された無数のスペースに血管と神経が走行しています。
帽状腱膜は頭部の皮下を押し付けるようにして、緻密結合組織と脂肪組織から構成され、多くの結合組織が小柱状に有り、脂肪組織は極めて多くの枠として存在し、その中に血管と神経が通過しています。
帽状腱膜は密になり相連なる構成のため、各層を剥離するのは容易ではないというのが「頭皮」です。
帽状腱膜下の結合組織は薄く柔軟性のある結合組織です。
病因病理
頭部表層の外傷、或いは皮膚の感染性疾患、例えば連続したせつ(おでき)が帽状腱膜の領域に発生すると損傷が起こりえます。組織修復過程の中で損傷部の筋膜や周辺組織の癒着、更に進行すると線維化し瘢痕や痙縮を形成します。その中の血管、神経が圧迫、牽引、腫脹を受け、かつ痙縮は局部の体液の流れを滞らせ、代謝産物もせき止められ、局部の張力は増加し、敏感な神経抹消部を刺激し、神経症状を引き起こします。
臨床表現
頭部の不快感、締め付け感、通常は頭頂部の張痛や痺れが放射状に側頭部に至り、持続性の鈍痛を呈し、寒冷や椎骨動脈損傷により痛みが増悪し針で刺されるような状態になります。
痙縮が重度なケースでは前後部の血管や神経を圧迫すると、相応の症状を訴えます。
診断の根拠
1.頭部に区域性の張痛や痺れ、締め付け感がある
2.頭部表層に外傷や感染性疾患の既往歴がある
3.病巣部に圧痛点がある、或いは椎骨動脈の損傷により痛みが増悪する
4.その他の引き起こされる頭痛の内科外科疾患を除外できる
治療の根拠
針刀医学の慢性軟部組織損傷の原理によると、上記のような症状の原因を作り出したのは組織が損傷後、修復過程の中で癒着や瘢痕、痙縮性病変により局部の動態平衡失調を作り出し体液の流れが滞るためです。かつ痙縮が引き起こす牽引応力により局部の力学的平衡が破綻され、更に組織の病変が進行する原因となります。したがって、針刀を用いて瘢痕を緩めてこのような悪循環を断ち切り、局部の動態平衡を再建します。
針刀治療
患者に背もたれのない椅子に腰かけてもらい、頭皮を触診します。有痛性の結節や明らかな圧痛点がある場合は、その部位が治療点となります。刺入時、刃先のラインと帽状腱膜線維方向は一致しており、針体と頭蓋骨の角度は垂直にして、まず刃先で適当な圧力を加えて皮膚を破らず、密になった血管と神経を押すと、圧迫部位に腫れる、痺れると訴えることがあります。神経に触れた可能性がある場合は、針を少し傾斜して刺入する。刺入後、切開剥離法を縦に2,3回、横に2,3回行います。
おわりに
まず解剖の補足となりますが、帽状腱膜とは左図のような形態をしています。前方は前頭筋と連結し、後方は後頭筋と連結します。両端になるほど薄くなり、側頭筋の筋膜と連結しています。
上記は針刀治療の解説ですが、一般的な鍼でも有効です。冒頭の断面図にあるように頭皮下は様々な層で構成されていますが、実際の鍼施術では骨際に鍼を入れていきます。やや強い組織の癒着があると毫鍼の太さは0.35mmor0.4mm程度の太めの鍼が必要になります。癒着が強いと捻鍼しないと入らないケースもあります。捻鍼しないと鍼が入らないケースは奏効する可能性が高いです。
慢性頭痛に効果があることもあります。
参考文献:
杨向群,导学式教学-人体局部解剖学,人民卫生出版社:2016
朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002