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股関節の解剖

股関節の解剖
目次

骨指標

股関節の骨指標

1.股関節上部の骨指標
(1)腸骨稜:腸骨は皮下に位置して上部の厚く肥厚した部分を腸骨稜と呼びます。腸骨稜上には筋肉が無く、筋腱に覆われ、通常は全長に渡り腰帯部下縁で容易に触れられ、深筋膜がその上に直接付着します。側面から見ると、両側の腸骨稜の最高点を結ぶ線は第4腰椎棘突起に相当し、腸骨稜の最も外側部分は腸骨稜結節と呼ばれ、一般では皮下に触れられます。

(2)上前腸骨棘:腸骨稜の前端に位置し、下肢長を測定する重要な指標となります。

(3)上後腸骨棘:腸骨稜の後端に位置します。

股関節の骨性指標
股関節の骨性指標(後面)

2.恥骨周囲の骨指標:恥骨結節は鼠径部の内側に位置しており、内方に移行すると恥骨稜となります。正中線の所では両側の恥骨稜の間に線維軟骨があり、相互に連なっており、恥骨結合と呼ばれます(図3)。通常、痩せている人は恥骨結節を皮下に触れられます。

恥骨周囲の骨指標

3.坐骨上部の骨指標

(1)坐骨結節:坐骨上にあり、上後腸骨棘の下方に位置しています。股関節を伸展すると、殿部の脂肪層や大殿筋が覆いかぶさり、坐骨結節は触れにくくなります。一方、股関節を屈曲すると大殿筋は外側に移動し、坐骨結節をはっきり触知できるようになります。坐骨結節から上へ向かうと坐骨や恥骨下枝を触れることができます。

(2)尾骨尖:両臀部しわ間に構造物として触れられ、肛門の1寸半後方に位置します。坐骨結節平面からやや上方レベルの位置になります(図2)。

4.大腿骨上部の骨指標

鼠経靭帯中央から下2cmの部位を圧迫すると同時に下肢を内外旋させると、大腿骨頭の転がりを触知することができます。

対比関係

1.ローザー・ネラトン線
 上前腸骨棘から坐骨結節を結ぶ線をローザー・ネラトン線といいます。この線は大腿骨頭の位置が正常か否か判断するときに使います。正常な場合では股関節を90~135°屈曲した時に大転子の頂点はこの線上に位置します。股関節脱臼や大腿骨の頸部骨折などの異常な状況では、大転子の頂点はこの線上から逸脱します。

2.Kaplan点
 検査は仰臥位(あお向け)で行い、両側大腿は真っすぐにして近づけます。そして両側の上前腸骨棘を水平に保持し、人体の片側ずつ大腿骨大転子の頂点から同側の上前腸骨棘の延長線が、股関節構造が正常だと、両延長線の交点が臍或いは臍より上部の部位でこの交点をKaplan点といいます。股関節脱臼や大腿骨頸部骨折などの異常な状況だと、この交点は臍の下、又は健側に偏位します。

3.頚体角
 大腿骨頸部と大腿骨は内方へ鈍角を成しており、通常この角度を頚体角といいます。この角度は比較的不変であり、成人だと通常は127°で上下の幅は110°~140°の間です。一般に男性の頚体角は女性より小さいです。これは男性の大腿骨頸部にかかる負荷が女性より大きいことが原因であると考えられますが、この角度は小児期には成人よりも大きく、通常160°に達しますが、成長と共に徐々に減少し、最終的には成人の角度に達します。この角度は下肢運動の敏捷性にとって非常に重要です。この角度により、下肢の可動範囲が広がり、上半身の重力を股関節の狭い荷重部分から大腿骨頸部の広い基部へ向かい、広く伝達できるようになります。

 臨床的には、頚体角が110°未満の場合は内反股と呼ばれ、頚体角が140°以上の場合は外反股と呼ばれます。

頚体角

 内反股の場合、大腿骨頸部の長さは正常より短く、大転子の位置は正常より高く、この時大腿骨は上に転移します。外反股の場合、大腿骨頸部の長さは正常より長く、この時大転子は正常より低いです。

4.前捻角
 大腿骨内、外側顆を結ぶ線の平面と大腿骨頭、頚部軸線の線で構成される角で、前捻角といいます。ある学者は前捻角は大腿骨頭、頚部の軸線が大腿骨課、或いは膝関節、足関節の横軸線に対し前方に向かい捻じる角度であるため、捻転角と唱えました。通常、前方に向いた角度です。

前捻角

 多くの研究者は、股関節外旋筋のトルクが内旋筋のトルクより大きいので、筋力のアンバランスから引張り応力を引き起こし、この角度が形成されると考えています。この他に、この角度は妊娠後期に子宮が胎児に対して加える圧力により形成されると唱える学者もいます。

 大腿骨頸部の前捻角の平均は約13.14°で男性は約12.20°、女性は約13.22°で女性の前捻角は男性と比較してやや大きな角度です。これは女性の骨盤はほぼ水平に近く、大腿骨が前方への弯曲が大きく、腰椎の湾曲が大きいなどの要因が関係している可能性があります。前捻角がとても少ないとマイナスの値になります。通常この角度の測定方法はそれぞれ異なり、一定の誤差が生じますが、結果はそれほど変わりありません。

 前捻角も頚体角と同様に、新生児期は成人より値が大きく、成長発達と共に徐々に値が減少し、最終的には成人の範囲に達します。通常では、大腿骨が内旋するとこの角度は無くなり、大腿骨が外旋するとこの角度が増加します。

 X線検査の結果を研究した結果、前捻角が特に大きい人は大腿骨が内旋する明らかな傾向があり、歩行時に「内八の字」型の歩容を呈し、大腿骨頸部が明らかに後捻している人の歩行は「外八の字」型の歩容を呈します。

 頚体角と前捻角を理解することは、股関節疾患の治療に対して非常に役立ちます。鍼灸師として、臨床上のニーズを満たすためには、このことをある程度理解しておく必要があります。

5.恥骨結合の横線
 恥骨結合の最高点を通過する1本の線を引きます。股関節構造が正常な時、この線は両側の大転子の頂点を通ります。片側、或いは両側の股関節に脱臼や大腿骨頸部骨折などの問題が生じた時、患側の大転子頂点はこの線より上方に転移します。

6.大腿骨大転子線
 両側の大転子頂点を結ぶ線と両側の上前腸骨棘を結ぶ線は平行です。片側或いは両側の股関節構造に異常がある時、患側の大転子は上に転移し、2つのラインは平行ではなくなります。

体表投影

1.上殿動・静脈及び神経
 中殿筋と梨状筋は大殿筋の深部に位置し、中殿筋後縁と梨状筋の間に上殿動脈が走行します。上殿動・静脈及び関係する神経は梨状筋上孔を通過し骨盤から出ます。上後腸骨棘から大転子まで線を引き、その線の上部と中央の1/3の場所が上殿動・静脈及び関係する神経が骨盤から出る体表投影です。

2.下臀動・静脈及び神経
 梨状筋下縁は下臀動脈、神経が梨状筋下孔から出る部位で、その内側に内陰部動・静脈、神経があり、そしてその後ろには坐骨神経と後大腿皮神経が通っています。上後腸骨棘から坐骨結節まで線を引きます。線の中点は下臀動・静脈及び関連する神経が骨盤から出る体表投影です。

3.坐骨神経
 上後腸骨棘から坐骨結節まで線を引きます。大転子から坐骨結節まで線を引きます。大腿骨内・外側上顆の線を引きます。3本の中点は坐骨神経が臀部及び大腿後面の体表投影となります。

4.大腿動脈
 股関節を屈曲、やや外旋した時、上前腸骨棘から恥骨結合の線の中点から内転筋結節まで直線を引き、この線上の上2/3の部分が大腿動脈の体表投影です。

骨盤の静態力学ユニット

 骨盤の静態弓弦力学ユニットは、腰部脊柱、寛骨、大腿骨、膝蓋骨、脛骨が弓で、連結するこれらの骨格の関節包、靭帯、椎間板、筋膜が弦となります。この機能は骨盤の正常な位置を維持します。

1.腰椎

2.寛骨

 寛骨は不規則な扁平状の骨です。主に上部の腸骨、前下方の恥骨、後下方の坐骨による3つの異なる形態の骨格で構成されています。上記3つの骨格が前下方で集まり寛骨臼を形成しています(図参照)。図の緑が腸骨、紫が恥骨、橙が坐骨です。

 両側の寛骨は体幹の前下方で、恥骨結合により相互に隣接しています。寛骨は体幹と下肢の間で橋梁のような役割を果たし、このことで体幹の力を下肢に伝えることができます。寛骨の内側面と仙骨、尾骨が共同で骨盤を構成し、骨盤内臓器の保護機能を有します。

寛骨色分け

 寛骨臼の前下方で、恥骨下肢と坐骨下肢が狭窄した部分に隣接した楕円形に近い孔が形成され、これが閉鎖孔です。生体では上閉鎖孔の大部分は閉鎖膜に覆われています。閉鎖切痕の上に小さな隙間が残っており、閉鎖神経と関係する血管がこの部位を通過します。腸骨体と恥骨上肢は結合部前面の上部に明らかな突出構造があり、これを腸恥隆起といいます。坐骨と腸骨の連結部分は不明瞭です。

3つの骨格の特徴を以下に述べていきます。

(1)腸骨:腸骨は寛骨の後上方の部分で、通常は体と翼の2つに分けられます。腸骨の形態は少し不規則で、扇子に似ています。扇子の持つ部分(中骨)が下部と坐骨、恥骨と接し、扇面は上向きです。扇子の持つ部分(中骨)は腸骨体で、扇子の扇面は腸骨翼を指します。

腸骨体:腸骨体は肥厚しており、寛骨臼の上2/5を構成しています。

腸骨翼:腸骨翼は上に向かって扁平で広く、その上縁は肥厚してS字状の腸骨稜を成します。

寛骨内面2
寛骨外側3

①腸骨翼の両面

a.腸骨翼の外側面:腸骨翼の外側面は前後の2つに分けられます(図B)。
 腸骨翼外側面の前部は外方に突出しています。この面は3つの線状隆起があり、前殿筋線、後殿筋線、下殿筋線に分けられます(図B)。この3本の殿筋線は腸骨外側の殿筋面を4つに分けます。後殿筋線後部の狭窄した区域は大殿筋の筋腱と仙結節靭帯の起始部です。前殿筋線と後殿筋線の間の区域は中殿筋筋腱の起始部です。前殿筋線下部と寛骨臼の間の区域は小殿筋筋腱の起始部です。小殿筋付着部と寛骨臼縁の間の狭窄部位は大腿直筋反転頭の腱と腸骨大腿靭帯の起始部です。腸骨翼外側面後部は内方に陥凹しており、仙腸関節を構成します。一部の骨標本では、この後外側に円錐状の骨突起が出現し、これを腸骨角といい、通常は両側かつ対称的に出現しますが、単独に出現することもあります。

b.腸骨翼の内側面:腸骨翼の外側面と同様に前後の2つに分けられます(図A)。
 腸骨翼内側面の前部は腸骨窩と呼ばれ、なめらかな陥凹で、大骨盤の後外側壁を構成します。この上部は腸骨稜内側唇で、下部は弓状線になります。後部は耳状面と腸骨粗面の前縁となり、この部位に腸骨筋が付着します。
腸骨翼内側面の後部は、ざらざらとした起伏がある耳状関節面です。ここに仙骨の耳状関節面が適合して仙腸関節を構成します。腸骨耳状面の周囲は関節包と前仙腸靭帯が付着し、この後上方のざらざらした面は腸骨粗面で、脊柱起立筋や多裂筋腱、及び仙腸骨間靭帯と仙腸背側短靭帯が付着します。腸骨内側面の下方に弓状線があり、この線は腸骨翼と仙骨体の境になります。

②腸骨稜

 腸骨稜の内・外縁はやや鋭く、内・外唇に分けられます。内唇の前部は腹横筋及び腰方形筋の腱が付着します。外唇は広背筋、大腿筋膜張筋、外腹斜筋、中殿筋の腱が付着します。内・外唇の中間線は内腹斜筋腱が付着します。上記の筋付着部は多くの栄養孔があり、上記の筋肉の血管は栄養孔から骨内に入り、関係する骨組織に血液を供給し滋養します。

 腸骨稜の前後両端はいずれも明らかに隆起しており、通常は皮下に触れます。

 腸骨稜前端の隆起した部分を上前腸骨棘といいます。この棘突起はとても明らかで縫工筋と大腿筋膜張筋の一部の腱の起始部で、鼠経靭帯の停止部でもあります。この棘突起の下5cmの部位は、外側大腿皮神経が通過します。

 上前腸骨棘の下には腸骨の前端の中点に別の突起があり、大腿直筋腱の起始である下前腸骨棘があります。腸骨稜の最高点では、その外唇が外側に膨らみ、腸骨結節を形成します。腸骨結節は上前腸骨棘の後上方5~7cmの所にあります。大腿骨大転子は腸骨結節の下方約10cmの所にあります。

 腸骨稜後端の隆起した部位を上後腸骨棘といいます。上後腸骨棘は臀部の小さな陥凹部に位置しており、下後腸骨棘はこの棘の下方にあります。下後腸骨棘はは仙腸関節でいうと最も後ろの部分に相当します。下後腸骨棘の上面は隔たりの後の正中線は広い区域にわたり、微小な陥凹構造があり、この構造は仙腸関節の中点に対し第2仙椎及び脊髄クモ膜下腔底部の平面に相当します。上後腸骨棘は仙結節靭帯の起始部です。

 腸骨の後縁は下後腸骨棘以下、大坐骨切痕に移行し大坐骨孔の構成に関わります。

(2)坐骨:坐骨は寛骨の後下方の部分でスプーンのような形状をしており、坐骨体と坐骨枝に分けられます。

1)坐骨体
 坐骨の上部に位置しており、主に寛骨臼下部2/5の部分を構成し、座位で上半身の体重を支持する主要な部分です。三角柱に近い形状をしており、内外面や前後縁に分けられます。

①坐骨体の内・外面:坐骨体の外側面は外閉鎖筋が付着する部位です。その内側面は滑らかで、小骨盤壁の一部を構成し、内閉鎖筋の付着部です。坐骨体の後面は関節包が付着する部位で、その下方は小坐骨切痕があります。

②坐骨体の前・後縁:前縁は比較的鋭く、閉鎖孔の後面を形成します。後縁は比較的肥厚しており、上方に向かうと腸骨の後縁に移行し、大坐骨切痕の構成に関わります。大坐骨切痕下部に後内方に向けて突出した三角形の突起構造は坐骨棘といい、肛門挙筋、尾骨筋、上双子筋腱、仙棘靭帯の付着部で大坐骨孔と小坐骨孔の境界と見なします。坐骨棘の下方は小坐骨切痕を形成し、下に向かうと坐骨結節に移行します。

③坐骨結節:坐骨体と坐骨枝が合わさる箇所は肥厚して起伏のある隆起となり、外観は卵形を呈し、横断面は三角形を呈します。横稜は坐骨結節を上下に分け、上部は半膜様筋の付着部、下部は半腱様筋、大腿二頭筋長頭、及び大内転筋の付着部になります。坐骨結節の下端と大腿骨小転子は同一平面上に位置して、この平面は同時に大腿方形筋と大内転筋が坐骨上の分界線としてあります。この他に坐骨結節の外側縁は大腿方形筋腱の起始部で、内側縁下部は仙結節靭帯の付着部です。上縁は下双子筋の起始部です。人体が座位の時、坐骨結節は上半身の体重を支えるのに重要な構造なのです。

2)坐骨枝

①坐骨上枝:三角柱形を呈し、後下方へ向かうと坐骨結節へ移行し、坐骨上枝の前縁は閉鎖孔の後界を形成し、その後縁と坐骨棘下の間の部分で小坐骨切痕を形成します。

②坐骨下枝:坐骨上枝の下端で、前内上方へ弯曲しながら移行すると恥骨下肢に隣接します。

(3)恥骨:恥骨は寛骨の前下方部分で恥骨体と恥骨枝を2つに分けます。人体が座位、起立する時に恥骨は支える働きがあります。

1)恥骨体
 寛骨臼の前下部1/5の構成に関わります。腸骨と接する所はざらざらした隆起を形成し、これを腸恥隆起といいます。

2)恥骨枝
 腸恥隆起から前内方へ向かうと恥骨上枝に移行し、その内側端は急に下方へ捻じれ恥骨下肢へ移行します。

①恥骨上枝:恥骨体を前内下方へ移行すると、その内側端は鋭角な形に変わり、移行すると恥骨下枝になります。恥骨上枝の形状により、3つの縁と3つの面に分けられます。

三縁:上縁は比較的薄く鋭く、これが恥骨櫛であり前方に移行すると恥骨結節になります。恥骨櫛は鼠経鎌、反転靭帯、裂孔靭帯が付着する部位です。恥骨櫛は後方へ向かうと弓状線に移行し前方へ向かうと最終的に恥骨結節に移行します。恥骨結節は鼠経靭帯内側端の起始部で、この縁の内側は腹直筋、錐体筋の腱が付着する部位です。

②恥骨下枝:形態はやや扁平で薄く、前後面と内・外縁に分けられます。その前面には長内転筋、短内転筋、薄筋、外閉鎖筋の腱が付着します。その後面は内閉鎖筋腱の付着部で、内側縁は反対側と共に恥骨弓を形成し、外側縁は閉鎖孔の構成に関与します。
 恥骨上・下枝が移行する所の内側面は、円形の関節面があり、これが恥骨結合面です。反対側の恥骨の共同構造と共に恥骨結合を形成します。
 恥骨体と恥骨枝は5つの股関節内転筋腱の起始部で、5つの筋肉の筋線維は下へ放射状に向かい、大腿骨の粗線などに停止します。

(4)寛骨臼
 寛骨臼は寛骨外側面の中部に位置し、上前腸骨棘と坐骨結節を結ぶ線の間の区域内にあります。寛骨臼は半円形の深く窪んだ構造で、逆さにしたお椀のような形を呈し、球面は170°~175°を占め、直径の平均は3.5cmです。寛骨臼の周縁とその開口部による平面と体幹の矢状面は開口部が前方に40°の角度を形成します。この平面と体幹の水平面は外向きに60°の角度で開口します。したがって、寛骨臼の開口部は前方、外方、下方へ傾斜しています。

 寛骨臼辺縁は土手状の形状で、その前部、下部と後部に隆起があり非常に堅固です。その下部に深くて広い割れ目があり、寛骨臼切痕といいます。この切痕から上に移行すると寛骨臼底部の粗い部分に繋がり、この粗面が大腿骨頭靭帯の付着部です。寛骨臼切痕の欠損部に寛骨臼横靭帯が通過し、この靭帯は寛骨臼辺縁を囲み、完全な円いカップとなります。同時にその周囲は軟骨で構成された縁が囲むように付着します。上記の構造により寛骨臼の深さは深く、寛骨臼面は大腿骨頭面の半分以上を覆うので、大腿骨頭は深く寛骨臼の中に包まれています。

 寛骨臼の最深部は厚く、堅くできています。人体の体重がかかる力線は仙腸関節から大坐骨切痕の前に伝わり、寛骨臼最深部へ移り、寛骨臼最深部は強い負荷を受けます。人体が直立、又は歩く時に寛骨臼最深部は大腿骨頭に荷重を伝達します。寛骨臼後下部から坐骨結節までの部分はもう一方の荷重点で、主に座位の時に体重伝達の役割を果たします。

3,大腿骨上端

(1)大腿骨頭
 大腿骨頭は頂点部が特殊な構造をしており、やや扁平である以外は、全体として球形をしています。その球体の直径は4~5cmで、その体積は同じ大きさの球の体積の2/3を占めています。大腿骨頭の幾何学的中心は、股関節の垂直軸、水平軸、前後軸によって貫かれています。大腿骨頭頂点のやや後方に小さな陥凹部があり、これが大腿骨頭凹面です。この凹面は大腿骨頭靭帯が付着する部位で、少量の微小血管がこの部位を通り大腿骨頭への少量の血液供給が可能となります。大腿骨頭の上半分は、大腿骨頭凹面の他は大部分にわたり関節軟骨に覆われています。その覆っている関節軟骨の厚みは全て同じではありません。大腿骨頭の中央部は上半身の荷重のほぼ全てがかかるので、この部位の軟骨は他の部位より厚く、大腿骨頭の周辺部は受ける荷重が少ないので、この部位の軟骨は比較的薄いのです。

 言い換えると、大腿骨頭の関節面は寛骨臼より少し大きいので、股関節の運動範囲が増えるのです。その上、覆っている寛骨臼の軟骨は比較的少なく、多くが逆馬蹄形を呈し、両臀部間に寛骨臼があります。その内側は脂肪壁を含み滑膜が覆っています。したがってどの位置にあっても、大腿骨頭の一部が寛骨臼窩内の軟骨組織と接触しますが、寛骨臼窩上の関節軟骨が全て接触するわけではないのです。それゆえ、股関節が関節応力を伝達する時、大腿骨頭の下内面は関節軟骨と接触せず、関節応力の伝達にも関わりません。

 大腿骨頭は主に大腿骨頭の赤道線以外は臼蓋に覆われていますが、大腿骨頭の前部、上部、後部辺縁の一部の関節軟骨は寛骨臼唇の外側に露出しています。このような状況は主に股関節臼が前外側に向き、大腿骨頸部軸が前内上方へ向き、つくられます。股関節を屈曲90°、又は外転、外旋時に大腿骨頭周囲の軟骨は完全に臼蓋上の軟骨と接触します。寛骨臼と大腿骨頭の両関節面は精密に合わさることより、関節に密着して頑丈である方がが重要な働きなのです。

(2)大腿骨頸部
 大腿骨頸部は大腿骨頭下方でやや細い部分です。この構造は大腿骨頭の外下方に位置しています。大腿骨頸部はやや前方に突出して、中部は比較的細くなっています。大腿骨頸部の上・下縁は丸みがあり、上縁はほぼ水平かやや上に凸となり、外方へ移行すると大転子となります。その前上縁間近にある大腿骨頭の所に時に大腿骨頭顆を形成し、その下縁、即ち後外下方へ移行すると、大腿骨の小転子付近に繋がります。

大腿骨上端前側2
大腿骨上端後面2

(3)大転子と小転子
 大腿骨頸の下方にははっきりとした2つの隆起があり、外側にあるのは大転子で内側にあるのは小転子です。この2つの隆起には多くの筋肉が付着します。

大腿骨近位前側筋付着部
大腿骨近位後側筋付着部

1)大転子
 長方形の隆起で、大腿骨頸と体が接する後上部の所です。大転子の位置は比較的浅く、皮下に触れやすく、臨床でよく使われる骨指標です。

 大転子の上縁から少し離れた肥厚した部位の縁後面に梨状筋が付着します。この縁と股関節中心はほぼ同一水平線上です。上縁後部は内上方に突出し、大腿骨頸部後方に明らかに高く隆起しています。大転子の内側面の前方は内閉鎖筋と上・下双子筋が停止します。大転子の下縁は稜状の隆起を呈し、外側広筋が付着する部位です。

 大転子の上部に粗く深い窪みがあり、これが転子窩で外閉鎖筋が付着する部位です。この内下部は主に海綿骨の大腿骨頸や大腿骨に連なります。この外側面は比較的ざらざらして、この部位に後上部から前下方に移行する稜状隆起があり、中殿筋と小殿筋の腱が付着します。

2)小転子
 円錐状の突起構造を呈し、大転子の平面以下、大腿骨後上方の内側に位置して、大腿骨頸後下縁と大腿骨体が隣接し、内向きに上方突出した部位です。小転子尖とその前面は比較的ざらざらしており、大腰筋が付着します。小転子のlプ面は比較的滑らかで大内転筋が覆い被さり、滑液包がその上に付着することもあります。小転子の底面と広い内側面と前面に腸骨筋が付着します。

 大転子の後下方で、小転子の平面に相当する所に、時々骨性突起が見られ、これを第三転子といいます。人体の正常な変位です。

(4)転子間線
 大腿骨頸の前面で大腿骨頸、体の間の隣接する所に、やや隆起した粗線状の構造があり、これを転子間線といいます。転子間線は比較的滑らかで大転子前縁の上内部から起こり、内下方へ移行し小転子下縁に至り、下方へ移行すると恥骨筋線になります。転子間線の部位にはその上に関節包前壁が付着し、転子間線の上端には外側広筋の最も上部の筋線維が付着します。転子間線の外側と内側は腸骨大腿靭帯の上、下束が停止する部位として区別されます。

(5)転子間稜
 大腿骨の後面に、大腿骨頸、体の間に隣接する所に、丸みをおびた稜状構造があり、これを転子間稜といいます。この隆起は転子間線と同じくざらざらした構造です。転子間稜は大転子の後上方から起こり、下内方へ向かい最終的に小転子に停止します。転子間稜の中部に結節があり、大腿方形筋腱が停止する部位です。この結節の上部、下部及び大腿方形筋自体は皆、大殿筋に覆われます。

股関節の骨格構造

 身体の体幹にかかる重力は、仙腸関節から臼蓋へ向かい、寛骨臼から大腿骨頭へ向かい、大腿骨頭から大腿骨頸へ向かい、このような順序で下肢へ向かい伝達します。寛骨と大腿骨の上端内側は海綿骨で、歩行や荷重するにつれて増え、徐々に交差する骨梁が出現します。

(1)大腿骨近位端の骨格構造
 大腿骨頭の骨梁系統は、直立歩行をする人類だからこそ備わっています。成人の大腿骨頭や大腿骨頸の骨梁の配列は主に重責を担う機能に関係します。その骨梁の多くは柱状の配列を呈し、上部に向かうと分散します。大腿骨上骨端の軟骨板が完全に癒合する前、これらの骨梁は大腿骨内側の骨皮質から大腿骨頸の下部を通過し、上方に向かい大腿骨上端の軟骨板に至ります。上腕骨上端の軟骨板が完全に癒合した後、骨梁は上方に真っすぐ移行し、大腿骨頭の関節面に停止します。これらの骨梁は主に体幹から下肢への負荷、又は下肢から体幹へ伝わる応力を受け入れます。また、これらの骨梁は股関節を越え、上方へ向かい腸骨を経由し、真っすぐ移行し仙腸関節に停止します。

 大腿骨上端内側の海綿骨は2種類の骨梁系統を形成します。1つは圧力系統、2つ目は張力系統です。

1)圧力系統
 内側は比較的垂直の骨梁系統から成り、主に適応する圧力の作用により形成され、その形態はこの部分の圧力の配列タイプによる作用から決定されます。これらの骨梁系統は大腿骨内側の皮質及び、大腿骨頸下方の皮質から起こり、主群と副群に分けられます。

骨梁図
1:主要な高圧力骨梁
2:主要な抗張力骨梁
3:大転子骨梁
4:2次的抗張力骨梁
5:2次的高圧力骨梁
6:ward三角

①主群:上群とも呼ばれ、この群の骨梁は堅固で厚みがあり、垂直方向を呈し上方に放散し、大腿骨頸と大腿骨頭皮質に停止します。

②副群:下群とも呼ばれ、主群に比べると、この群の骨梁は細く薄く、柔らかいです。弓型を呈し、上外方に拡散します。最終的には大転子や大腿骨頸付近の皮質上に停止します。

骨梁図譜

2)張力系統
 外側の弓形状の骨梁系統で、主には適応する張応力の作用により形成されます。この部位の骨梁系統はこの部分の張力の配列タイプによる作用により決定されます。これらの骨梁の主なものは大腿骨の外側皮質から起こり、同じ圧力系統は圧力系統と同じく主群と副群に分けられます。

①主群:この群は弓のような曲線をを呈し、内上方へ弯曲し、通過する方向は圧力系統の方向と直角に交わります。大腿骨頭下面及び、大腿骨頸下面の皮質上に停止します。

②副群:主には大転子内に位置しており、大転子の表面に平行した走行です。

 正面X線写真上では、大腿骨頸が外反している時、骨梁の圧力系統は緊密になり、骨梁の張力系統は柔らかくなり消失します。しかし、大腿骨頸が内反する時、骨梁の圧力系統の骨梁は減少する一方、骨梁の張力系統の骨梁は増加します。ただし、上記の変化はX線撮影の位置や条件によって影響を受ける可能性もあるため、実際の骨梁層の減少を正確に表すものではなく、この部位の変化は大腿骨頸の内反・外反後により骨梁の変化が生じた、と錯覚を起こすことがあります。

3)圧力と張力系統骨梁の交差構造
 交差するのは大腿骨頭と頚部です。主に圧力系統主群の骨梁と張力系統の弓状束が交差して形成されます。この部位の骨板は緻密で堅固で、かつその骨梁も大腿骨頸下方の比較的厚い皮質と※大腿骨距(カルカ)により支えられています。
※大腿骨距(カルカ)…大腿骨の頚部から骨幹部の内側にある骨皮質のことで、この部位の安定性が骨性支持に直結するものと考えられている。

 もう一方の交点は、大腿骨の大転子と転子間線の間の線上に位置します。それは主に、圧力系統副群の骨梁と張力系統の弓状束の交差により形成されます。この部位の骨板は比較的緻密で堅く、その内側柱の重力負荷系統は、老年時に骨質が脆弱になることで薄く弱く、まばらになります。上記の2つの交差は大腿骨頸部の前後壁間の区域内にあります。則ち大腿骨の大、小転子と転子間稜の間の狭い区域内で、骨梁は欠乏し、その骨梁は比較的薄く弱い区域でWard三角、或いは大腿内三角と呼ばれます。

 大腿骨上端内部の骨梁の走行タイプから3つのグループにわけられます。①大腿骨頭の部位の骨梁は関節面方向へ向かい放射状である;②大腿骨頸の骨梁は大腿骨周囲の皮質から起こり、大腿骨頸内に弓状構造を形成し、大腿骨頭の部位の骨梁と融合し支持的作用が起こる;③大腿骨大転子の骨梁の走行は僅かです。この3つの骨梁の中で①と②は大腿骨特有で、これは大腿骨頸の形状や筋肉が付着する部位に関係があります。

 大腿骨上端を前額面で見ると、圧力骨梁曲線が大腿骨頸を通って大腿骨頭関節面の端まで上向きに移動し、扇形を示しています。大腿骨頭の骨梁と寛骨の骨梁の圧力線の配置は一致しています。大腿骨小転子の上の髄腔内の骨梁は少なくて弱いですが、この領域の大腿骨幹には厚くて強い骨皮質があるため、この部位の骨皮質は薄いですが、この部位の骨梁は堅強な耐負荷システムを構築しているのです。

関節包

 股関節の関節包は遠近で異なります。関節包の遠位側は、前面が転子間線の所で停止し、後面は転子間稜の内側約1.25cmの部位に停止します。この部位は大腿骨頸の中、外1/3の接合部に相当し、股関節包の近位側は寛骨臼窩縁、寛骨臼辺縁、寛骨臼横靭帯などの部位に付着します。大腿骨頸前面は全て股関節包に覆われます。大腿骨頸後面1/3の部分は股関節包に包まれていません。大腿骨頭、頸の間を横行する骨端円板は関節包に包まれています。

 股関節包線維は主に深部の横線維と浅部の縦線維から構成されており、横線維は主に輪帯の形成に関与し、大腿骨頸部を取り囲んでいます。人類は最終的に直立歩行状態に進化して以来、股関節包の固定を強化するために股関節包の一部が徐々に螺旋状や斜め状に進化し、進化のニーズに適応してきました。

 股関節包の前後は関係する靭帯により補強されています。股関節包前側の腸骨大腿靭帯が最も強く、その分岐点の薄く弱い部分は腸腰筋膜がカバーして補っています。腸腰筋腱浅層内側には大腿動脈が通過し、大腿静脈は大腿動脈の内側に位置しており、恥骨筋上に付着します。腸腰筋腱の外側には大腿神経が通過し、腸骨筋前面を下に向けて走行し、腸骨筋膜に覆われ、腸骨筋は筋間裂隙の中にあるのと同じ状況です。上記の3つは股関節包と隣接しています。

靭帯

(1)腸骨大腿靭帯
 腸骨大腿靭帯は股関節包の前に位置しており、大腿直筋の深部で逆Y字形を呈しています。この靭帯と股関節包の前壁は緊密に接触し、長くて強度があります。この靭帯は全身の中で最大の靭帯です。

 腸骨大腿靭帯は下前腸骨棘とその後方2cmの寛骨臼縁から起こり、靭帯の線維方向は外下方に移行し、扇形を呈しています。下方へ移行する時に2つに分岐し、外枝は転子間線の上部に停止し、内枝は転子間線の下部に停止します。腸骨大腿靭帯の外枝は大腿の外転、外旋を制限し、内枝は大腿の外転を制限します。腸骨大腿靭帯の内側部と外側部は比較的厚く、とても強いです。下前腸骨棘で剥離骨折がある時でも、この靭帯は断裂することがありません。しかし、靭帯の分岐部はとても脆弱で、時に裂孔のような構造を形成することがあります。

 人体が直立姿勢をとる時、体幹の重心は股関節の後方を通過します。この時、腸骨大腿靭帯は股関節の伸展を制限する作用があります。起立動作で腸骨大腿靭帯は体幹が股関節上に保持するための安定性を保証します。上半身の重心が大腿骨頭上に落ちる時、腸骨大腿靭帯と大殿筋の共同作用により、股関節は伸展し、体幹も直立となり、それにより直立姿勢の保持を行うのです。屈曲を除いて、股関節が運動中、腸骨大腿靭帯は一定の緊張度を保持します。特に股関節の伸展、外旋時は特に緊張します。

股関節前面靭帯
股関節後面靭帯

(2)恥骨大腿靭帯
 恥骨大腿靭帯は股関節包の前下方に位置しており、三角形の形状をしています。
恥骨大腿靭帯は恥骨上枝、恥骨体、腸恥隆起、閉鎖孔及び閉鎖膜上から起こり、斜め外下方へ向かい大腿骨頭の前方を通過して外下方へ向かい、大腿骨頸に至り、股関節包の内側と股関節包、及び腸骨大腿靭帯の内枝の深部で合わさります。この靭帯は最終的に転子間線下部に停止します。

 この靭帯と腸骨大腿靭帯から分岐した2つの枝でN字形の構造を形成し、この構造は股関節の外転運動を十分に制動します。

(3)輪帯
 この靭帯は関節包の内面で大腿骨頸部深層線維が円形に肥厚した部分です。この靭帯は大腿骨頸の中部を取り囲み、大腿骨頭を制御することができ、外れることを防止します。この靭帯線維は大腿骨頭頸後部で浅くなりますが、一定の支持力を有しています。

(4)坐骨大腿靭帯
 坐骨大腿靭帯は包括的には三角形の線維包で、股関節の後面に位置して、やや螺旋状で比較的薄いです。
坐骨大腿靭帯は寛骨臼の後下部から起こり、その線維は外上方に向かい、大腿骨頸の後面を通り股関節包の輪帯へ移行し、最終的に大転子の根部に停止します。この靭帯の線維は股関節の深部で関節包の輪状線維と合わさり、その上部線維は水平に近く、股関節を越えて腸骨大腿靭帯と合わさります。この靭帯は股関節の過度な内旋、内転を防止します。

(5)大腿骨頭靭帯
 股関節包内にある線維帯です。この靭帯は三角形の形状でやや扁平です。寛骨臼横靭帯と寛骨臼切痕から起こり、大腿骨頭顆に停止し、移行する間は常に滑膜に包まれています。

 大腿骨頭靭帯は股関節の関節包内にありますが、滑膜内に包まれているよりは、主に滑膜管に囲まれ、下方へ移行し股関節切痕の部位で解放されます。主には寛骨臼横靭帯の滑膜と寛骨臼窩内の脂肪の滑膜に覆われ、続いていきます。股関節下方の脂肪壁は股関節を屈曲した時、寛骨臼窩内に吸入され、股関節が半屈曲位、又は内転、外旋運動時に大腿骨頭靭帯は緊張します。従って、大腿骨頭の安定性に対し、一定の保持作用を有しています。

 一般的な認識では、大腿骨頭靭帯は人類が退化する時の残留構造えあると言われています。一部の学者は、この靭帯は股関節包や恥骨筋の一部に由来すると考えています。

(6)寛骨臼横靭帯
 寛骨臼横靭帯は股関節腔内で、実際は寛骨臼縁の一部に属します。この靭帯は力強く扁平な線維靭帯で構成され、寛骨臼切痕の両側を跨ぎ、一つの裂孔を形成します。その内側には血管や神経が通り、この靭帯と関節包、大腿骨頭靭帯の基底部が2つの束となり融合します。

 股関節周囲の靭帯分布状況を見てみると、股関節包の内下方と後下方の部分は比較的薄く、弱いため、股関節の内転、屈曲、或いは軽度内旋位で最も不安定になります 。

筋膜

(1)股関節前面と鼠径部の浅筋膜
 浅筋膜は主に脂肪と柔らかい結合組織から組成され、その中には皮神経と血管、リンパ節があります。人体のその他の部位と比べて、この部分の脂肪は比較的厚いです。臍のレベル以下は、浅筋膜の浅層、深層と2つに分けられます。

1)鼠径部の浅筋膜

①浅層:又の名をCamper筋膜といいます。豊富な脂肪組織を有し、下へ向かうと股関節前側の浅筋膜に続きます。

②深層:又の名をScarpa筋膜といいます。豊富な弾性線維の膜性層で、中浅部の部位で白線上にしっかりと付着し、下へ移行すると鼠経靭帯の下方約1横指の所で、大腿部の深筋膜にしっかりと付着します。

2)股関節前面の浅筋膜

①浅層:脂肪を含有し、上方の鼠径部のCamper筋膜に続きます。

②深層:膜性構造で、上方の鼠径部のScarpa筋膜に続き、大腿部の大腿筋膜と融合します。その内側は恥骨弓と恥骨結節に付着し、最終的にはこの層の筋膜と会陰筋膜、及び陰茎筋膜と陰嚢の筋線維に続きます。

(2)鼠径部の深筋膜

1)外腹斜筋腱膜と鼠経靭帯
 外腹斜筋腱膜は外腹斜筋が鼠径部で移行して腱膜が形成され、その線維方向は主に外上方から内下方へ向かいます。この腱膜は恥骨結節の外上方で三角形の裂隙を形成し、これを鼡径管浅口(外口)といいます。鼠経靭帯は外腹斜筋腱膜の下縁で上前腸骨棘と恥骨結節の間の区域で後上方へ折り返し形成される靭帯です。

2)大腿筋膜と篩状筋膜

①大腿筋膜:寛骨前面の深筋膜をいいます。この筋膜の上方は鼠経靭帯、上前腸骨棘、恥骨結節、恥骨弓などに付着し、外方へ移行し殿筋膜となり、腸骨稜の外唇に付着します。

②篩状筋膜:伏在静脈裂孔大腿筋膜浅層に覆われた薄い組織で、大伏在静脈が貫通する以外は、小血管、リンパ管、関係する神経が貫きます。この筋膜は柔らかい篩状を呈するので、篩状筋膜と呼ばれ、大腿管底部を構成します。

(3)股関節後面の浅筋膜
 臀部の浅筋膜は比較的発達しており、その厚みは身体に対して比較的大きく、腸骨稜付近又は下臀部の領域で比較的厚く、肥厚した脂肪壁を形成し、中部は比較的薄くなっています。浅筋膜の中には線維と皮膚、深筋膜が相連なっています。臀部の浅筋膜の上方と腰背部の浅筋膜は互いに続き、その下部及び、外側部と大腿部の浅筋膜は互いに続き、その内側は仙骨背面と上後腸骨棘付近の領域で薄くなります。臀部の浅筋膜の中に表在の血管と神経が含まれます。

(4)臀部の深筋膜
 臀部の深筋膜は殿筋膜とも呼ばれます。この筋膜の上部と腸骨稜は緊密に相連なり、その筋膜線維は下方へ向かうと大腿後面の深筋膜へ移行します。殿筋膜は大殿筋の上縁で浅層と深層に分かれ、大殿筋と大腿筋膜張筋を取り囲んでいます。殿筋膜は大腿筋膜張筋、大殿筋、中殿筋上部に覆われ、この筋膜の下方、前面領域は大腿筋膜張筋となり、その後方は大殿筋となり、中間域は中殿筋となります。その中で大腿筋膜張筋と大殿筋は中殿筋の後、前縁を区別し覆い隠します。この筋膜の浅層は薄いですが、緻密で、筋肉を包み込む過程で線維性隔壁の形で筋束の中に入ってくるため、筋膜は筋肉から剝がれにくくなっています。殿筋膜の外上方の部分は比較的堅く、中殿筋の上に覆いかぶさります。この筋膜の下方部分は大転子の部位の外側面で明らかに肥厚し、大殿筋と大腿筋膜張筋の腱膜は互いに融合し、下へ向かい移行し、腸脛靭帯の構成に関わります。殿筋膜の内側と仙骨の背面は相連なり、その外側で大腿筋膜へ移行します。

筋肉

(1)腹直筋
 股関節部分の腹直筋はこの筋の下の部分です。この筋は腹部前面白線の両脇にあり、腹直筋鞘内で上が広く下が狭い帯状の筋肉です。
腹直筋の筋腱は恥骨結合と恥骨稜から起こり、胸骨の剣状突起と第5~7の肋軟骨に停止します。
腹直筋は第7~12肋間神経、腸骨下腹神経、腸骨鼠経神経の分枝から支配を受けています。

(2)腸腰筋
 腸腰筋は股関節屈曲筋の主な働きをする筋肉です。この筋肉は腸骨筋と大腰筋を総称していいます。
 腸腰筋は股関節前面で、一部の筋線維は第12肋骨、全ての腰椎側面から起こり、もう一方の筋線維は腸骨窩から起こり、腸骨窩と後腹壁を下に移行し、2つの筋線維は徐々に結合し、腱となり大腿骨小転子に停止します。この筋腱と小転子の間の領域には不安定な滑膜包があり、これが腸骨筋腱下滑液包です。腸腰筋の表面は筋膜に覆われ、これを腸腰筋膜といいます。股関節を近位固定する時、腸腰筋の筋力方向は後下方から前上方へ斜めに向かい、これは大腿が股関節の所で屈曲、外旋運動に作用します。股関節を遠位端固定する時、腸腰筋の筋力方向は後上方から前下方へ斜めに向かい、骨盤と体幹の前屈保持に作用します。この筋肉が収縮すると、大腿の挙上、腰を曲げる、走行などの運動が可能です。

(3)縫工筋
 人体の中で縫工筋は最も長い筋肉です。その平均的な長さは約52cmです。この筋肉は狭窄した筋腱が上前腸骨棘とその下の骨面から起こり、斜め下方へ向かい大腿前面の全体を越えて、筋腱の下端は扁平な薄い筋腱となり移行し、鳥の足のような形状で、半腱様筋と薄筋の表面を越えて、最終的に脛骨上端の前縁内側と脛骨粗面の内側面に停止します。この筋肉が収縮すると下腿と大腿を屈曲させ、屈曲する股関節の外旋、外転に作用します。この筋の筋力の中で、約1/10は外旋に作用し、故に縫工筋は股関節外旋筋の一部と認識されています。

(4)大腿四頭筋

①内側広筋:大腿内側で大腿四頭筋の一つです。大腿前内側部に位置して、大腿骨の転子間線下部、大腿骨粗線内側唇、大腿内側筋間中隔から起こり、その起始部の内・外縁は内転筋と中間広筋の結合部で分けられます。この筋線維は下へ移行し脛骨粗面に停止します。

②外側広筋:外側広筋は大腿骨転子間線の上部、並びに大腿骨大転子下縁の殿筋粗面外側唇、外側広筋稜、外側筋間中隔、大腿骨粗線外側唇の上部から起こり、筋線維は前下方へ向かい、大腿骨体の前面と外側面を覆い、最終的には腱膜様式で大腿四頭筋腱と相連なり、膝蓋骨の外側縁に停止します。

③大腿直筋:この筋肉の起点は短く堅い筋腱を形成し、2頭に分かれます。1頭は直頭といい、下前腸骨棘から出て、筋線維の走行と方向は一致します。もう一方の頭は反回頭といい、寛骨臼の上部から起こり、腸骨大腿靭帯の側方を覆い、上記の頭は鈍角か直角を形成します。大腿直筋の下部は下へ向かい幅が狭く厚い腱索になります。それぞれ大腿四頭筋その他の組織と相互に融合し、堅い大腿四頭筋腱を形成し、膝蓋骨底とその両側に付着し、下方へ移行し膝蓋靭帯となり、最終的に脛骨粗面に停止します。
 大腿直筋の股関節屈曲の作用は非常に強く、特に股関節を屈曲した状態で、この筋肉の屈曲作用が最大限に発揮されます。大腿直筋はハムストリングスと拮抗し、それにより協同で股関節と膝関節をロックする作用があります。人体が起立する時、この筋肉はテコの作用を有し、人体が起立する時に安定性を加えます。

④中間広筋:この筋肉は扁平な羽状筋です。その深部には大腿骨表面があり、大腿直筋の深部に位置して、その前面は腱性を呈し、僅かに陥凹した形態をしていて、大腿直筋を収めることができる恰好となっています。その両側は外側広筋、内側広筋と分けることができないほど、密に繋がっています。中間広筋は大腿骨前面、その外側面の上2/3の領域から起こり、その筋線維は後方から前下方へ向かい走行します。大腿直筋、内側広筋、外側広筋に覆われ、大腿骨の前面に密着し、内・外側広筋と部分的に融合し、共に下方へ移行し大腿四頭筋腱となります。

(5)薄筋
 この筋肉は恥骨弓から起こり、起始部の筋腱は比較的広く、薄くなっています。その下端は細く薄くなっており、筋腱上端の筋線維は扇形を呈し拡散しながら移行します。最終的には脛骨の内側顆に停止します。薄筋は大腿の内転作用を有しています。

(6)恥骨筋
 恥骨筋は恥骨上枝の恥骨櫛から起こり、その筋線維は外下方へ向かい、後方へ移行し大腿骨頸の後方に向かい最終的に扁平な腱として大腿骨の恥骨筋線に停止します。この筋肉の一部は関節包に停止します。その機能は股関節の内転です。

(7)長内転筋
 長内転筋は扁平な腱として恥骨体、恥骨上枝の前面から起こり、筋線維は外下方へ向かい、幅広い扁平な腱に移行します。大腿骨粗線内側唇の中1/3の部分に停止します。股関節を強く外転する時、恥骨結節の下方に硬い索状隆起を触れます。それが長内転筋です。その機能は股関節の内転です。

(8)短内転筋
 短内転筋は恥骨体、恥骨下肢の前面から起こり、大腿骨粗線内側唇の上1/3の部分に停止します。その機能は股関節の内転です。

(9)大内転筋
 大内転筋は恥骨下枝、坐骨結節、坐骨下枝の前面から起こり、その筋線維は下へ移行すると広がり、大腿骨粗線、大腿骨内側顆の骨稜上部に停止します。その機能は股関節の内転です。

(10)大殿筋
 大殿筋の一部の腱は腸骨の後殿筋線の腸骨殿筋面から起こり、もう一部の腱は短く仙骨下部、上後腸骨棘、尾骨の背面などから起こり、および仙結節靭帯、両骨間の靭帯の一部は胸腰筋膜の所にあります。この筋肉の起点は比較的幅広く、腸骨稜に付着する割合は、腸骨稜全長の1/4の部分を占め、主に外下方へ向かい平行に続きます。大殿筋の停止腱はほぼ板状で、板状の腱の上3/4の部分は斜めに大転子を越えて、腸脛靭帯の深部に移行し、板状の腱の下1/4の部分で大内転筋と外側広筋の間の領域に出て、大腿骨の殿筋粗面に停止します。股関節の近位端を固定すると、大殿筋の引っ張り力は前外下方から後内上方へ斜めに向かい、大殿筋が収縮すると大腿を伸展させ内転、内旋も可能です。大殿筋は股関節伸展筋の中で最も強く、大殿筋の上部線維が収縮すると、大腿の外転運動となります。

(11)中殿筋
 臀筋群の中層にあり、前殿筋線上方と後殿筋線前方の腸骨骨面、大腿筋膜、腸骨稜の外唇から起こり、その筋線維は扇形で扁平な筋束として移行し、大転子先端の上面、外側面に停止します。中殿筋の主な機能は股関節外転でその前部線維は大腿の屈曲、内旋運動の補助作用があり、後部線維は大腿の伸展、外旋の補助作用があります。

(12)小殿筋
 中殿筋の深部で、前殿筋線と寛骨臼より上部の腸骨背面から起こり、その筋線維は徐々に扁平な腱へ移行し、最終的には大転子の上面、外側面に停止します。小殿筋の前部線維は比較的厚く、大腿直筋の両頭を覆います。小殿筋は中殿筋と共同で様々な運動が成り立ちます。

(13)梨状筋
 梨状筋の大部分の筋線維は第2~4の前仙骨孔外側から起こり、骨盤に移行すると仙棘靭帯、仙結節靭帯、仙腸関節包に付着する線維が組成に関わり、上記の構造が大坐骨孔のほぼ全てを占有します。骨盤に出た後、この筋線維は腱に移行し、股関節包の後上方から外方に隣接しながら移行し、大転子上縁後部に停止します。この機能は股関節の外旋です。

(14)上双子筋、下双子筋
 殿筋群の中層に位置し、内閉鎖筋腱の上、下の領域を分けます。上双子筋は小坐骨孔の上縁、即ち坐骨棘の部位から起こり、下双子筋は小坐骨孔の下縁、即ち坐骨結節の部位から起こり、両筋の筋線維は内閉鎖筋腱と合わさり、最終的に転子窩に停止します。この機能は股関節の外旋です。

(15)内閉鎖筋
 内閉鎖筋は閉鎖孔の内面、周囲の骨面から起こり、その筋線維は小坐骨切痕へ移行する中で集中し、その筋腱は小坐骨切痕の後方で直角に向きを変え、最終的に転子窩の内側面に停止します。その機能は股関節の外旋です。

(16)大腿方形筋
 大腿方形筋は坐骨結節の外側面から起こり、大転子後面と大腿骨の転子間稜に停止します。その機能は股関節の外旋です。

(17)大腿二頭筋
 大腿二頭筋の起始部は長頭と短頭に分けられます。長頭は坐骨結節上部内方の圧痕から起こり、短頭は大腿骨粗線の外側唇下方の外側筋間中隔から起こり、この2つは下端で融合し1つの腱となり、最終的に腓骨小頭に停止します。この筋肉は膝窩の外上面です。
 大腿二頭筋が収縮すると、股関節伸展、膝関節屈曲の他、膝関節をわずかに外旋する作用があります。

(18)半膜様筋
 坐骨結節の外上方の圧痕から起こり、脛骨内側顆後方の横溝と膝窩筋の筋膜に停止します。この筋線維は上方に向かうと幅が広くなり、膝関節包後方の斜膝窩靭帯を形成します。
半膜様筋の全体像は上が狭く下が広い形態で、その外縁は索状を呈し、筋腹の内側面はやや後方を向き、浅筋膜と皮膚に相連なります。

(19)半腱様筋
 半腱様筋の起始部は坐骨結節上部で、薄筋腱と縫工筋の深部を貫き下方へ向かい移行し、最終的に脛骨粗面の内側面に停止します。
 半腱様筋は半膜様筋が形成する窪みの中に位置して、半膜様筋と共同で膝窩の上面を構成します。
 大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋は大腿後面の筋肉に属し、総称してハムストリングスと呼ばれます。この3つは坐骨結節から起こり、停止部は大腿骨を越えて関係する下腿骨になります。3つの筋肉は股関節伸展、膝関節屈曲の作用があります。

(20)大腿筋膜張筋
 大腿筋膜張筋の腱膜組織は上前腸骨棘、腸骨稜外唇前2.5cm、大腿筋膜から起こり、大腿筋膜に覆われます。この筋肉は全て大腿筋膜間の両層に包まれ、筋腹は帯状を呈し、上部が厚く下部が薄く、筋線維は後下方へ移行し、大腿部の上、中1/3を分ける領域で腸脛靭帯に移行し、続いて下へ向かうと、最終的に脛骨外側顆に停止します。
 大腿筋膜張筋の主な作用は大腿筋膜の緊張状態を維持することで、一定の股関節屈曲作用があります。

参考文献:无绪平 张天民,针刀医学临床研究,中国中医药出版社:2011.p268-286
     森 於蒐 他,分担解剖学,金原出版株式会社:1982.p141-159
     河上 敬介,改訂第2版 骨格筋の形と触察法:2013.p276-331

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