概説
第3腰椎横突起症候群は比較的よく見られ、難治性腰痛の一つです。一般的な治療で効果を挙げることは難しいです。針刀療法の応用により、この病の病理に対して新しい風穴を開け、ゆえに早期に奏効する治療法として知見を得ました。
解剖
第3腰椎横突起には数多くの大小様々な筋肉が付着しており、隣り合う横突間には横突間筋があり、横突起尖と棘突起の間に横突棘筋があり、横突起前側に大腰筋と腰方形筋があり、横突起の背側には※仙棘筋があり、腰背筋膜中層に横突起尖が付着しています。腰椎のあらゆる横突起の中で第3腰椎横突起が最も長く、活動も多く、引っ張られる応力も最大です。このため、損傷のリスクが高いのです。
※仙棘筋:腸肋筋と最長筋を総称したもの
病因病理
第3腰椎横突起は他の腰椎横突起と比べて長いです。腰椎の中部において強い安定性と平衡作用を制御するという役割を果たします。この生理特性のために腰部を屈伸運動する時、横突起先端部の軟部組織が摩擦で損傷することが多く、過度に、長時間腰を曲げたり、腰を屈伸するような時、第3腰椎横突起先端部は腰背深筋膜と仙棘筋による摩擦損傷を受けやすいのです。
第3腰椎横突起尖部が摩擦を受け損傷する筋肉は、毛細血管から出血があり筋線維は断裂し、自己修復過程の中、一定条件下で筋肉内部に痂疲(かさぶた)ができ、第3腰椎横突起尖部の癒着、腰背筋膜と仙棘筋の活動は制限され(腰部の屈伸)ます。人体が力を使い腰を曲げたり或いは労働する時、深筋膜と仙棘筋は牽引応力を受け損傷へと至り、局部の出血や充血、水腫を引き起こし、重い臨床症状が出現します。一定の時間、休憩すると充血と水腫は吸収され臨床症状の大部分は軽快します。しかし、癒着は更に悪化し循環不全も形成します。従って臨床上、有効な治療を受けていない人はこれらの症状が漸次悪化する傾向にあります。第3腰椎横突起尖部の摩擦、牽引損傷を受けた筋肉の部位は第3腰椎横突起尖部の活動範囲内のライン上にあり、横突起尖部に癒着が発生し、この癒着形成後痛点は第3腰椎横突起尖部の点上に固定され、第3腰椎横突症候群になるのです。
臨床症状
腰中部(上下に対し)の片側、或いは両側の疼痛があります。腰背部はこわばり腰を曲げられず、長く座る、長く立つことが出来ません。重度な場合歩行困難となり、起立時に両手で腰を支え休憩や様々な治療により軽快することがあります。ひとたび腰の活動が多い作業をすると、疼痛は増悪し重度な場合、生活に介助が必要になりベッドで寝返りをするのも厳しい状況となります。軽症者であっても腰を曲げた作業は困難となり、長く立ち仕事をするのも厳しく、天気の影響で症状が増悪することもあります。
診断の根拠
1.既往歴で外傷又は労作性損傷がある
2.第3腰椎横突起尖部の片側、或いは両側に過敏な圧痛点が有る
3.前屈試験陰性
治療理論
針刀医学の慢性軟部組織損傷理論によると、第3腰椎横突起損傷後、癒着、瘢痕、痙縮が引き起こされ、第3腰椎横突起部の動態平衡失調を発生させ、上記の臨床症状が発生します。慢性期の急性発作時に病変組織の水腫から滲出した液体が末梢神経を刺激して上記の臨床症状を増悪させます。上記の理論によると第3腰椎横突起部の損傷は主に第3腰椎横突起末端に起こります。針刀を用いて癒着を解消し、瘢痕を削ると第3腰椎横突起末端の動態平衡失調が回復し、根治に至ります。
針刀治療
初病期と緩解期、いずれも針刀治療は可能です。第3腰椎横突起尖部(圧痛部位)に通常の消毒を行い、刃先と体幹を平行にして刺入します。刃先が骨面に到達した時、横に剥離し、筋肉と骨尖の間が緩んだ感覚が有ったら抜鍼し、少しの間綿球で刺鍼した部位を圧迫します。
重度の炎症をしている場合は25mgの強い消炎鎮痛剤、20mgの局所麻酔薬を注射します。通常は1回の治療で治りますが、1回の治療で完全に治癒せず痛みが残存していたら、5日後に再度治療します。多くても3回を超えないようにします。
おわりに
タイトルにある「第3腰椎横突起」ですが腰椎にある横突起は一般的に「肋骨突起」といいます。
この「第3腰椎横突起症候群」という病名は医学書院の標準整形外科学第13版に記載はありません。日本では一般的に認知されていないので、見逃されていることがほとんどかと思われます。図で見てわかるように、肋骨突起の周りは仙棘筋、腰方形筋、大腰筋に囲まれており、各々の筋のスパズムと間違えやすいです。
治療法の中では針刀を使ったやり方として説明していますが、軽度~中等度な癒着では一般的な鍼で解消することが可能です。横突起の先端を探るのは難しいので、私は先端と思われる部位周辺に密刺します。
日本の教科書には書いてないですが、知っていると臨床力がupします。
参考文献:朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002