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北京堂鍼灸伊東

菱形筋損傷の治療法

菱形筋損傷の治療法
目次

概説

菱形筋損傷は青壮年に多く見られ、よく遭遇する疾病です。多くは背部の痛みで、背部痛の一種です。

解剖

 大、小菱形筋は肩甲挙筋の下方にあります(右図)。小菱形筋は狭い帯状を呈し、下位2つの頚椎棘突起から起こり、肩甲骨内側縁に付着します。また、大菱形筋の上方にあり、大菱形筋との間に薄いハチの巣状の組織層があります。大菱形筋は薄く広く菱形で、上位4つの胸椎棘突起から起こり、外下方へ向かい、ほとんどが肩甲骨内側縁に付着します。大、小菱形筋は肩甲骨の内転、内旋し、肩甲骨挙上時に肩甲骨を正中線へ近づけます。

筋連結
小菱形筋:大菱形筋、僧帽筋、上後鋸筋、前鋸筋、肩甲挙筋
大菱形筋:小菱形筋、僧帽筋、上後鋸筋、前鋸筋

菱形筋

病因病理

 この疾病の大多数は上肢で力強く投げる、或いは転倒、上肢を後下方へ急に力を入れる等の動作により急性損傷を引き起こし、治療を受けない、或いは適切な治療を受けていないと、徐々にこの疾病を引き起こします。
菱形筋は肋骨と隣接しており、急性損傷で出血し、しばらくすると結節が癒着し、その損傷部位は肋骨上にあり、すでに肋骨と癒着を起こし、菱形筋の伸縮運動に影響を与えて発症します。上肢を無理に動かす時に、癒着部位が引張られ、新しい損傷が作り出されて、急性症状が出現します。

臨床表現

 この疾病は菱形筋損傷の急性症状が緩和して長い時間が経った後、発症します。急性発病時、背面の上位脊柱と肩甲骨内側縁の間に突出した痛点があり、局部の腫脹がある時もあります。程度が重いと上背部(脊柱部)まで症状が達して、例えると重りを背負っているようで、重症者だと入眠出来ず、寝返りも困難となります。歩行の時は患側の肩が下がり、患側で物を持ったり、動かすことに対し消極的になります。そうして増悪を免れるのです。

診断の根拠

1.菱形筋の損傷した既往がある。
2.患側上肢を受動的に前方挙上すると、疼痛が増悪する。
3.痛点、圧痛点は第5胸椎と肩甲骨下端を結ぶ線上で、大多数は肩甲骨内側縁の近くにある。

治療理論の根拠

 針刀医学の慢性軟部組織損傷理論によると、菱形筋損傷後に癒着、瘢痕、痙縮などを引き起こし、頚部の動態平衡失調を作り出し、上記の臨床症状を産生します。慢性期の急性発病時、水腫から滲出した液体が末梢神経を刺激して、上記の臨床症状を増悪させ発病します。上記の理論に基づくと、菱形筋損傷の部位はその起始停止部で、下位2つの頚椎棘突起と肩甲骨内側縁の上部(小菱形筋の付着部)、上位4つの胸椎棘突起と肩甲骨内側縁全域(大菱形筋の付着部)です。針刀を使い、起始停止部の癒着を解消し、瘢痕を削ると菱形筋の動態平衡は回復し、この疾病は根治に至ります。

針刀治療

 患者に背もたれのない椅子に真っすぐ座ってもらい、上肢は自然な形で胸の前に置き、少し健側に向きます。基準となる痛点を確認し、肋骨に沿って菱形筋を横行剥離します。刺入する時、肋間神経に刺入する事や気胸を防ぐため、肋間に刺入してはいけません。
 腫脹が重度な方は、患部に局所麻酔薬を注射する場合があります。局部の腫脹が無ければ、局所麻酔薬の必要はありません。5日後、治癒していなければもう一度治療します。一般的には3回程度で治癒します。

おわりに

 ここでは針刀を用いた治療法の説明ですが、よっぽど重度でなければ一般的な鍼で治療可能です。治療法の解説では肋骨に沿って針を入れる、との内容ですが、当然鍼が肺に入るリスクが高まります。そこで、現実的には安全策をとり、まずは脊椎側に鍼を入れることで様子を見ることをお勧めします。
菱形筋損傷の病因病理を含めた解説というのは、かなり参考になる内容かと思います。

参考文献:
河上敬介 他,改訂第2版骨格筋の形と触察法,大峰閣:2013
朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002

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