軟部組織損傷の主な問題は診断であり、診断は最も良い治療計画を立案する前提であり、治療効果向上の保証をするものです。軟部組織損傷の診断における過去の失敗からの経験と教訓を要約し、診断原則を提唱することは、軟部組織損傷の診断レベルを向上させる上で大きな意義があります。
1)臨床で明らかな外傷の既往がない激しい痛みや難痛症の場合は、考えられる様々な器質的疾患を除外した後、軟部組織損傷の可能性を検討します。例えば、肩の痛みの場合は肺尖の腫瘍を除外する必要があり、腰痛の場合は結石を除外する必要があります。肩甲骨間領域の痛みには肝臓や胆のうの病気は含まれませんが、安易に五十肩、腰部筋や菱形筋の労作性損傷と診断してはいけません。誤診すると、患者に過度の苦痛をもたらすことになります。
2)悪性腫瘍の既往歴がある患者を治療する場合には、まず局所の痛みが悪性腫瘍の転移によるものかどうかを除外する必要があり、安易にその疑いを排除してはいけません。臨床ではよく悪性腫瘍の骨転移に遭遇し、軟部組織損傷性の痛みを訴えます。当然、治療前に明らかにする検査を行う必要があり、不必要なもめごとを回避します。
3)頭や顔面の痛みについては、まず頭蓋内の器質的疾患の可能性を排除する必要があり、診断を誤ると、患者の被害が生じるのは言うまでもありません。
4)長期間治療効果のない軟部組織損傷の場合は、診断の正しさを考慮し、協同筋、代償筋、拮抗筋の検査を行い、並びに上部、下部の関連筋を検査を行います。例えば、曲池穴の痛みは上腕骨外側上顆炎以外では、上腕二頭筋短頭や烏口腕筋の損傷により引き起こされることもあります。また、上肢の麻痺と大・小円筋、棘下筋の損傷とは密接な関係があり、膝関節内側痛は腸脛靭帯の痙攣により引き起こされることもあります。これらの筋肉の病変は患者が診断の時に痛みを感じませんが、医者が検査する時、索状硬結や圧痛がみられることもあります。医者は注意深い検査を加えてこそ、正確な診断が可能になります。
5)胸部や腹部の内臓疾患による首、腰、手足の痛みに注意します。例えば狭心症の場合、左胸壁の前胸部に痛みがあり、左腕内側に沿って痛みが広がります。もちろん、体表の痛みの原因の可能性も軽視できませんが、例えば剣状突起症候群では前胸部に不快な張りがあり、心臓病と同じような症状がみられます。そのため、私たちは軟部組織損傷の診断を重視しないといけないのです。
6)詳細な問診や注意深い全面的な身体検査は、様々な診断の見落としや誤診を減らせます。身体検査では、総合的かつ詳細な内科的検査だけでなく、それに対応する神経学的及び整形外科的な様々な特殊検査も含まれ、同時に軟部組織損傷の臨床特徴を踏まえた検査も軽視しません。例えば圧痛は、結節や病変した軟部組織が牽引され動き、主動的或いは受動的収縮により痛みを生じます。これらは痛み診断の基本的要件です。
7)補助検査に関しては、CTやMRIなどの高度な検査手法を、軟部組織損傷の正確な診断や診断の選択に対して行うことは重要な意義がありますが、通常の検査手法を軽視することはできません。宣蛰人先生は臨床手法及び動作の検査において、疼痛を脊柱管内により引き起こされているのか、脊柱管外により引き起こされているのか区別するのに、CTやMRIよりも説得力があると考えています。私たちは臨床的手法による検査を重視しなければいけません。
8)心理的な痛みが疼痛の病因である可能性を軽視すべきではなく、ヒステリー性の疼痛は臨床で少なくありません。注意力が散漫だったり、入眠後の疼痛があるかどうかを尋ねて理解して、その病因を分析します。ヒステリー性疼痛患者は痛みにより目が覚めるといった現象はほとんどありません。この点で軟部組織損傷が引き起こす痛みと区別します。
つまり、私たちは真剣かつ責任感を持ち、根気強く問いかけ、総合的に分析する必要があります。軟部組織損傷で行った処置に対して適宜治療効果を評価して、当然治療効果が良くない時は、その時の診断に誤りが無かったか、治療過程は不十分なのか徹底的に分析し、診断或いはその時の治療方針をタイムリーに修正するのです。このようにしてやっと診断と軟部組織損傷の治療ができ、一つの症例であらゆる向上があるのです。
参考文献:胡超伟,超微针刀疗法,湖北科学技术出版社:2014