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慢性軟部組織損傷による各科の疾患産生

慢性軟部組織損傷による各科の疾患産生
目次

序論

 著者が慢性軟部組織損傷疾患に対する認識は、ただ運動器だけという範囲に留まらず、包括的には硬組織以外の全ての組織、器官にわたります。これからこの問題に対して更に述べていきます。
慢性軟部組織損傷は運動器疾患で産生されるということは、すでにはっきり認識していました。そしてその他の分野の疾患は、今までそれほどはっきり認識していませんでした。著者は既に慢性軟部組織損傷の四大病因要素が癒着、痙縮、瘢痕、閉塞でその第一の根本的な病因は動態平衡失調であると認識していました。我々の内臓は様々な形式の損傷を受けた後、人体の自己修復過程の中で、最終的な結果は癒着、痙縮、瘢痕、閉塞という新しい病理要素を形成し、同様に内臓実体の動態平衡失調と流体的動態平衡失調を引き起こします。それゆえ、内臓の慢性損傷性疾患と運動器系の慢性軟部組織損傷の本質は同一であり、これからいくつかの例を挙げて説明します。

各系統の疾患

心臓:いわゆる心筋の疲労性損傷ですが、これは心筋の疲労性損傷を指し、この種の疲労性損傷は心筋の肥厚変性を引き起こし、この本質は心筋線維が瘢痕性増殖を形成することです。いわゆる冠動脈性心臓病の冠状動脈内壁のプラーク、この本質は冠状動脈の労作性損傷後の瘢痕増殖で、この種の瘢痕増殖が血管内壁にあることで、冠動脈内の血流障害が生じ、脂肪性物質(コレステロール類)が血管壁上に留まり粥状硬化を形成します。いわゆる心筋虚血は冠動脈の血流障害を除いて心筋自体が長期間疲労損傷を受けることで、筋線維に癒着が生じ、この事が主な原因で循環器系で多くの慢性病となり、その真の病因の多くが上記の通りなのです。

肺:いわゆる肺気腫ですが、その本質的な原因は肺の長期にわたる労作性損傷で肺胞の痙縮や癒着、微細な瘢痕を産生し、肺の弛緩能力は大幅に低下し、気管支は労作性損傷のため痙縮し、狭窄し重症化すると閉塞し、その病理変化の本質は慢性軟部組織損傷と同一です。肺はその他のタイプの損傷を受け慢性疾患を引き起こすこともありますが、その病理変化は基本的にほぼ同一です。

肝臓:いわゆる門脈圧亢進症は、肝臓内部と外部に瘢痕を形成し、血流障害を引き起こし、更に肝血管の損傷を引き起こし、様々な種類の慢性肝疾患を引き起こします。その一方で、毒性の化学物質は肝臓に対して長期にわたり侵害性損傷を引き起こし、肝臓が自己修復過程の中で、肝臓内部組織の広範な微小癒着、痙縮、瘢痕、閉塞を産生し、肝臓の活動機能は極めて大きな障害を受け、肝臓自体の新陳代謝系統も同様に障害され、これは肝硬変疾患の最も根本的な病理変化なのです。

膵臓:いわゆる慢性膵炎ですが、その本質の原因は膵臓の長期にわたる過度の疲労により、疲労性損傷を引き起こし、或いは毒性の化学物質が膵臓に対して侵害性損傷を引き起こし、自己修復過程の中で膵腺内部の新陳代謝系の新陳代謝系も同じように障害を受け、その本質的原因はその他の慢性軟部組織損傷と同様です。

腎臓:いわゆる慢性腎炎ですが、その大多数は毒性の化学物質と細菌が腎臓に対して侵害性損傷を発生させ、その自己修復過程の中で、腎臓内部組織の微小な癒着、痙縮、瘢痕、閉塞を産生させ、腎臓自体の新陳代謝が障害され、これによって腎臓機能に影響を与えます。

胃:いわゆる慢性胃炎や胃潰瘍の類ですが、この根本原因は胃が長期にわたり疲労状態に置かれることで、疲労性損傷を引き起こすか、或いはその他の毒性化学物質が胃に対して侵害性損傷を引き起こし、自己修復過程の中で、胃の組織に広範な微小な癒着、痙縮、胃の血液循環障害を産生し、胃内壁の栄養供給が障害され、これによって胃が自己修復する能力に影響を与えます。これがある種、胃の慢性疾患の本質的原因なのです。

腸:慢性腸炎の類は、その腸内壁が細菌と有害物質の長期にわたる障害を受け、侵害性損傷を引き起こし、自己修復過程の中で、微小で広範な癒着、瘢痕、微小循環障害を産生し、腸の自己修復能力と活動能力に極めて大きな影響を与え、これは他の慢性軟部組織疾患と本質的に同一です。

胆のう:慢性胆のう炎の類の大多数は暴飲暴食によるもので、常に大量の脂肪性食物を摂取し、胆のうの長期にわたる過負荷を生み出し、疲労性損傷を形成し、胆のう組織内部の微小で広範な癒着、瘢痕、循環障害を引き起こし、胆のう自体の活動能力と自己修復能力は大きく低下し、胆のう自体の新陳代謝も同様に障害され、その他の慢性軟部組織疾患の本質と同様です。

膀胱:慢性膀胱炎、又は通称間質性膀胱炎ですが、直視可能な膀胱内膜下層組織に充血と微小で浅い潰瘍があり、これらの充血と潰瘍の本質は膀胱自体が毒素や細菌に感染し、侵害性損傷を引き起こし、自己修復過程の中で、膀胱の微細な障害(閉塞、痙縮、毛細血管と筋線維の癒着)を引き起こし、精神性損傷は同様の病理結果を産生します。「小外科学(1990年10月第1版p433)」には以下のように記載があります。”一部の女性が排尿時の尿道不快感、頻尿や切迫尿意などの症状を訴えましたが、泌尿器系の検査では異常がありませんでした。病歴を注意深く尋ねるとあり精神的な要素はよく見られます。具体的にはイライラ、事故による挫折、嫉妬、卑屈になる、性欲の減退などの症状です”。これは精神性損傷の実例であり、最終的には慢性膀胱炎を引き起こし、これは他の慢性軟部組織損傷疾患の本質と同様なのです。

その他の系統:その他にも多くの慢性疾患があり、大多数かそれ以上は各臓器の慢性疾患の病理メカニズムは基本的にほぼ同じであり、リンパ系、内分泌系、神経系など、それらに関係する組織構造の慢性疾患です。ここでは詳細なことに触れません。

結論

 運動器系を除くその他の科の中の慢性疾患は、かつてその真の病因病理の大多数は明らかになっていなかったため、根本的な治療法が無く、臨床的に対処療法するしかありませんでした。その根本原因、すなわちそれらの本質を認識できていなかったのです。しかし、臨床上で出現した様々な兆候から既にそれらと運動器系の慢性軟部組織損傷疾患に密接な関連があるという感覚は持っていました。この分野の理論で指導的立場ではなく、更にこの分野の研究を進める勇気もなく、かつて運動器系の慢性軟部組織損傷疾患の病因病理が明らかではなかったので、その他の科の慢性疾患の本質の理解と認識も同様だったことは言うまでもありませんでした。

 清の時代の著名な医学家である王清任は「医林改错」という本を書き、更に間違いを犯したと批判する人もいましたが、それは今日まで受け継がれており、彼の理論と手法は今でも幅広く応用され受け継がれています。彼はほとんどの難病に「瘀血(古く汚れた血)を取り除き血流を良くしなければならない」と考え、ザクロ鼻などの皮膚疾患においても、瘀血を取り除き、血行を促進することで奇跡的な効果を上げ、内臓の難病に対する有効な方剤として血府逐瘀湯(けっぷちくおとう)と少腹逐瘀湯(しょうふくちくおとう)を発明しました。これらの難病の本質が、この本で説明されている慢性軟部組織損傷の四大病理要素である閉塞によって引き起こされていることに気づいていたようです。もちろん、歴史的な制約により、彼は閉塞の詳細を解明することは出来ませんでしたが、彼は体液(血液含む)循環の閉塞が、重要な病理学的要因であるという重要なメッセージを我々に示してくれました。

 前のセクションで慢性軟部組織損傷疾患の根本病因は動態平衡失調であり、動態平衡失調の四大病理要素を作り出すと述べました。この理論は各科の慢性軟部組織損傷疾患に活用されています。例えば心臓、肝臓、肺、膵臓、腎臓、それぞれ、様々な形式の損傷後、癒着、瘢痕、痙縮、閉塞という四大病理要素を産生し、これらの臓器の動態平衡を失調させます。心臓に関する組織の癒着、瘢痕、痙縮、閉塞という病理変化の後、心臓の収縮、弛緩機能、冠動脈の血流(流速と流量)はとても大きな影響を受け、すなわち心臓の動態平衡は破壊され、別の言い方だと動態平衡は失調します。仮に心臓の収縮弛緩能力が回復すれば、血流は回復し、心臓の動態平衡も回復します。これはとても分かりやすいです。肝臓、肺、膵臓、腎臓が正常な状態であったら、血流の流れ以外にそれら自体が形式の異なる幅や大きさの動きで、それらは様々な形式の異なる損傷を受けた後、癒着、痙縮、瘢痕、閉塞という四大病理要素を産生し、同様にそれらの運動障害を作り出し、すなわち動態平衡失調となるのです。

 本項の論述を通して、我々は各科の慢性疾患の中で幅広く慢性軟部組織損傷の病理要素の存在を理解できたと思います。この事はこの類の疾患の本質を理解する上で極めて重要なのです。

参考文献:朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002

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