第3章で述べたように、私たちは人類文明の飛躍的な発展という状況に直面しています。人類は医療分野に対し高い要求を突きつけ、医学は現代文明の受容に合致した、徹底した改良を行わなくてはなりません。こんな時、私たちは目の前の医学に対してどのような改良を行ったら良いでしょうか?
第一に私たちは目の前の医学を改善、向上するために、人類のニーズに合わせ、人類が有する医学業績の研究を掘り下げて行い、その神髄を引き出し、現代の科学知識により再構築を行えば、人類医学を新しい段階に進めることが出来ると考えています。そのためには、世界の2大主流医学である東洋医学(主に中医を指す)と西洋医学を総合的かつ深く研究し、その本質を見極め、それぞれの欠点を克服し、この2大医学体系の神髄を有機的に統合し、現代の科学知識を用いて創造・発展させることにより、現代人の要求を満たす新たな医学理論体系を生み出すことが出来ます。客観的にみると、針刀医学はこのようなことを実践して、これが新しい医学の理論体系といえます。
針刀医学の誕生については、まず東洋医学と西洋医学の発生と発展の歴史的背景、思想の源流と起源を研究し、東洋医学と西洋医学の考え方の異なる歴史的背景の元で異なる考え方、理論体系の違いを明らかにします。これらの異なる思想モデルを有することから、東洋・西洋医学は完全に異なる思想方式を作り出し、西洋医学は一種の対立する構造を作り出しました。針刀医学は西洋医学とは対立する原因を明らかにして、西洋医学と統合する方法と結合点を発見しました。まず考え方から融合と結合を行います。針刀医学は既に形象思想の方法を用いており、抽象思想の方法は人体の生理、病理、を理解して、相応する診断、治療、保護を行います。例えば、リウマチ疾患における血沈が速いという病理現象は形象思想による検査方法で、リウマチ疾患のような疾病でなぜ血沈が速いのでしょうか?答えるのは難しいです。更に一種のリウマチ性関節炎の患者は血沈は早くなく、基本的に正常です。形象思想でこの本質を理解するのは難しく、この時、針刀医学は抽象的思想方法を用い、中医学の精髄を吸収し、血沈が速い(亢進)ということは中医学では気虚、血虚の結果だと言われ、治療時に現代医学知識の運用やリウマチに対する治療以外に、中医の補気、補血の手段を同時に行うと血沈は速やかに正常に回復し、疾病の状態も好転します。血沈が速くない(亢進していない)場合は補気、補血をする必要はありません。リウマチ性関節炎の疼痛で、西洋医学の形象思想の認識では炎症反応を引き起こした時、ホルモン剤を服用すると軽快しますが、一旦服薬を止めると疼痛は初めの状態に戻ります。西洋医学単独ではこの明らかな問題に対して形象思想を用いた解決策が無いのです。針刀医学は抽象的思想方法を使い施用医学の検査も併用し、リウマチ性関節炎の疼痛の根本原因が関節包の痙縮、関節液滲出に伴う関節内圧向上によるものだと認識して、針刀を使い疼痛に対し関節包を部分的に線維方向に対して横方向へ切開して、関節内圧を下げると、関節痛は速やかに軽快して、症状が再発することはありません。リウマチ疾患に対し東洋医学、又は西洋医学単独の知識を運用して治療すると、目下、根治する手段が無く、多くのリウマチ疾患患者が生涯、苦痛と不自由と共にしなくてはいけなくなります。針刀医学はリウマチ性関節炎の急性期だけに良い効果があるわけではなく、90%以上の患者に根本的な治療が可能で、リウマチ性関節炎の末期でも良い効果があります。リウマチの末期は側弯、関節強直、関節壊死などの症状は今のところ、東洋医学、西洋医学では治療法が無い(治療する意味が無い)ものとして認識されています。それに対して針刀医学では形象思想の検査であるX線、CT、MRI検査を通じて関節の破壊、癒合、関節周囲の軟部組織の変性状況を確認します。また抽象思想方法では人体を一つの有機的な総体と見立て、強い自己修復能力を持ち、関節機能の悪化がどの程度か、リウマチ性関節炎の病理要素が根本的な解決に至らないのは、関節包と関節周囲の軟部組織の極度な痙縮で、関節間隙に続く変性が消失し、周囲の軟部組織及び関節包が長期にわたり高圧力刺激を受け、徐々に硬化し、最後は骨化します。したがって私たちは病理要素を消すために、人体の良好な修復条件を構築し、元々の組織構造を壊さず、人体の自己調節、修復により本来の関節機能を回復させます。
針刀医学が疾病を処理する際、2つの異なる思想モデルを応用し、疾病とその治療を考えます。例えば、診断では形象思想の方法で生化学検査、X線検査、CT検査、MRI検査を行い、解剖学と西洋医学の生理学、病理学の知識を使い疾病を考察し、同時に抽象思想の方法でこれらの検査結果を分析し、巨視的に疾病を客観的に病因、病理メカニズムの変化、結果を把握できるのです。また、巨視的、全体的に疾病の本質を認識することが出来ます。例えば、慢性軟部組織損傷の類の難しい疾病の認識では、形象思想の方法で、損傷後に線維断裂、血管破裂が起こり、その修復過程の中で各種の軟部組織の間に癒着、結節、変性、痙縮が発生し、急性発病時にこのような炎症反応である一連の病因、病理状況があり、巨視的な抽象思想の方法では、軟部組織がこの病理変化の後、局部損傷が全体に与える影響、肢体運動への影響、及び各軟部組織間の相対的な運動への影響を分析し、それゆえにこれらの軟部組織損傷疾病の本質は内外動態平衡失調だと考えるのです。内外動態平衡失調は慢性軟部組織損傷の第1の根本的原因で、それゆえに慢性軟部組織損傷の治療は有力な理論的根拠を提供します。針刀医学が慢性軟部組織損傷にあらゆる努力で治療するのは、人体の内外動態平衡を回復することであり、内外動態平衡さえ回復すれば、慢性軟部組織損傷の類である難しい疾病でさえも根本的な治療が可能だからです。また、針刀医学が骨関節炎に対する認識は形象思想方法であるX線検査、CT検査、MRI検査を応用し、直観的に関節内の骨質増殖及び骨棘の成長状況を検査し、巨視的な抽象思想方法で、関節及び関節周囲の様々な組織の労作性損傷後の関節に対する影響を分析し、人体の力学的な新理論に関する現代自然科学の成果により、骨質増殖の根本原因を発見しまた。関節内応力の平衡失調の結果で、老衰及び退行変性は骨質増殖の根本原因ではなく、私たちは骨質増殖疾病の治療を手に負えない状態から徹底して変化させました(もし骨質増殖が老衰や退行変性により引き起こされるのであれば、全く対処法はありませんが)。同時に骨質増殖の治療の道筋を徹底して見直しました。つまり治療の目標は骨質増殖自体ではなく、あらゆる治療手段は関節内外の力学的平衡を回復させることです。関節内外の力学的平衡が回復すれば、骨質増殖疾病は根治可能なのです。例えば、慢性気管支炎の考え方では、直観形象的思想方法でX線検査、生化学検査が行われ、気管局部の炎症反応、拡張を診て、又は巨視的抽象思想方法で全身、その他の組織疾病が肺に与える影響を分析し、脊椎のある特定の部位が軽微な慢性軟部組織損傷と骨関節損傷を発見し、肺の交感神経、副交感神経機能の調節に影響を与え、慢性気管支炎の根本原因は気管自体ではなく、肺の交感神経、副交感神経機能の異常であることが分かります。このように私たちは慢性気管支炎の発症メカニズムと治療目標を従来の考え方から大きく変更しました。つまり、あらゆる治療は気管支の炎症正反応の問題を解決するのではなく、あらゆる治療は脊椎の特定部位や軽微な慢性軟部組織損傷、骨関節損傷に対して行われ、肺の交感神経、副交感神経の機能を正常に回復させれば、慢性気管支疾病は根治可能なのです。
このように2,3病例を挙げましたが、針刀医学が東洋・西洋という異なる思想モデルを融合して、一体となり疾病の診断、治療を行うという医療体系だという説明は十分だったのではないでしょうか。今後更に多くの疾病に対する論述を進めていく中で、この点を深く、明確に理解しておくことは必要になります。
針刀医学は、病気の診断と理解において東洋医学と西洋医学を融合させるだけでなく、病気の治療においても融合させました。例えば、針刀医学は西洋医学の観血的手術を非観血的手術に変え、つまり西洋医学の外科的手術治療と伝統的な中国医学の鍼治療を統合したものです。東洋医学における鍼治療は、金属の針を人体に刺して病気を治療するもので、皮膚を切らずに人体の組織形態を傷つけること無く深部まで到達することが出来ますが、切開したり剥がしたりほぐすことは出来ません。西洋医学の外科的治療では、人体内部の病変部位を切開、剥離、解放、更には除去することが出来ます。しかし、同時に皮膚及び関連組織の切除も必要です。第1章のセクションで、西洋医学の手術による人体に引き起こされる後遺症は非常に深刻で避けられないものであると述べました。針刀治療は、皮膚や関連組織を切らずに病巣を切る、ほぐす、剥離する、除去するという目的を達成できるため、手術による後遺症や合併症を回避でき、伝統的な東洋医学の鍼治療を補完するものです。東洋医学の鍼治療と西洋医学の外科治療と同様に、針刀医学もしくは現代科学の最新の成果を利用して、非観血的手術に関する一連の理論を創造し、伝統的な東洋医学の鍼治療と西洋医学の外科治療を1つの非観血的手術に統合しました。針刀治療は臨床に直接応用でき、実行可能な新しい医療技術となっています。
以上のように、針刀医学は東洋・西洋医学の基礎理論から臨床治療までが一体となったものです。従って、針刀医学の出現は西洋医学と融合した産物ともいえるのです。
参考文献:朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002