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北京堂鍼灸伊東

上殿皮神経障害の治療法

上殿皮神経障害の治療法
目次

解剖学

 上殿皮神経はTh12~L3脊髄神経後外側枝の皮枝で構成されています。その起始から停止まで大部分は軟部組織の中を走行しており、その走行過程は4部6点に分けられます。

 骨表部:椎間孔を出た後(出孔点)、横突起背側に沿って走行し、線維束により固定されます(横突起点)。
 筋内部:脊柱起立筋に進入し(入筋部)、筋内を下外側に走行し、脊柱起立筋から出ます(出筋部)。
 筋膜下部:胸腰筋膜浅層の深部を走行します。
 皮下部:深筋膜から出て(出筋膜部)、筋膜下部に対し鈍角に曲がり、下外側に向かい、皮下の浅筋膜を貫きます。この部分で腸骨稜を乗り越え、堅い脊柱起立筋を通過し、胸腰筋膜の腸骨上縁付近で、骨線維性の楕円形のトンネルを形成し(骨性線維管)、殿筋膜へ入ります(入臀点)。

大腿皮神経4点

 臀部へ入った後、通常、前、中、後の3枝に分かれ、筋膜を貫き、中枝が最も太く、長さは大腿後面、膝窩に至る場合もあります。

西洋医学の認識

1.解剖要素
 上殿皮神経を貫く仙腸筋膜が形成する卵円形の裂隙部は脆弱です。ひとたび腰部の損傷が起こると、殿筋の強力な収縮により、局部の圧力が上昇し、筋膜深部の脂肪組織がこの裂孔から浅層に向けて腫れ、突出などが起こり、腰痛を引き起こします。

2.損傷要素
 外力が直接作用し神経を損傷する以外に、体幹が健側に向かい過度に曲がる、或いは回旋する時に上殿皮神経は引張られ、神経の急性・慢性損傷を発生させます。或いは外側に偏位し、神経水腫の癒着を引き起こし、圧迫が出現します。

 臨床で触れて痛みがある筋束は、肉眼では小さなかけらのようで、触れると小さく、中殿筋、殿筋膜と癒着し、線維性癒着となります。全ての束状組織はおおむね神経ではなく、肉眼初見では神経枝は癒着していません。光学顕微鏡では線維脂肪組織が観察され、その中には小血管壁の肥厚、炎症性細胞の浸潤が見られます。横紋筋線維が見られ、稀に神経線維も見られます。

針刀医学の認識

 上殿皮神経圧迫症候群は上殿皮神経が骨面上に有る時、肋骨突起背側に沿って走行し、線維束により固定され、皮下で腸骨稜をまたぐ必要のある時、堅い脊柱起立筋、胸腰筋膜を経由し、腸骨稜の上縁付近で形成される骨性線維管が殿筋膜に入ります。仮にこの2か所の筋肉や筋膜に癒着、瘢痕、痙縮が発生すると、上殿皮神経を圧迫し、本疾患を引き起こします。

臨床表現

 主な症状は患側の腰臀部痛で、特に臀部の痛みで、刺すような痛み、だるい痛み、引き裂かれるような痛みを呈します。かつ痛みはよく持続的に発生し、間欠的に起こることは少ないです。通常、痛みは深く区域はぼんやりとして、明確な境界は分かりません。急性期の疼痛は激烈で、大腿後面に放射状に起こることもありますが、膝関節を越えることはありません。患側の臀部にしびれがあることがありますが、下肢のしびれはありません。患者はよく立ち上がり困難と訴え、腰を曲げる時に疼痛が増悪します。

診断の要点

 多くの患者には決まった圧痛点を検査し、通常は第三腰椎横突起と腸骨稜中点及びその下方に圧痛があり、圧迫すると張痛やしびれを生じ、大腿後面に放射状に症状が広がることがありますが、膝関節を越えることはありません。腱反射は正常です。

治療法

上記の内容から治療のポイントは上部、中部、下部の3つに分けられます。神経の問題が起こる主な要因は「圧迫」と「牽引」です。上記3か所は筋肉と神経の位置関係から、癒着や瘢痕により神経の圧迫と牽引が発生しやすくなります。狙う組織を順に説明していきます。

1.上部(大腰筋)
 普通体型の弾性の場合、L4-5間から外側に4~5cmの部位に8cmほど直刺し、腸骨稜上縁からL5-S1レベルに8cm直刺or斜刺をします。棘突起から刺鍼部位までの距離は上方へいくほど短くしてL3ー4レベル、L2ー3と直刺します。L2ー3レベルはL3ー4レベルに対して1cmほど短く刺入します。L3の肋骨突起は治療ポイントになりますので、図にはありませんが同部位の癒着、瘢痕に対する鍼を合わせて行うことを念頭に置いておきましょう。
更に棘突起間から外側に7cm辺りから椎体へ向けて鍼を入れます(図で黄色の鍼)。大腰筋の緊張が強いと肋骨突起間の隙間が狭く、入れるのに苦労する場合もあります。

大腰筋刺鍼2
腰部夾脊への刺鍼

2.中部(脊柱起立筋)
 腰椎棘突起から外側に2.3cmの部位(夾脊)へ刺入します。使用する鍼の長さはやせ型の人で4cm、普通体型で5cm、大柄な人で6cmです。腰椎部だけでなく、仙椎部も同じように刺入します。まずは図にあるように1列の刺鍼で様子を見て、起立筋の緩みが不良な場合は2列、3列と増やします。

3.下部(腸骨後方)
 腸骨稜の位置を触診で確認し、腸骨後方上部に圧痛の有無を確認します。腸骨稜の中央~正中部が治療ポイントとなりますので、75~100mmの鍼で腸骨後方をこするように鍼を入れていきます(図参照)。鍼の太さは0.4~0.5mmを推奨します。

腸骨後方への刺鍼

考察

 神経が絞扼しやすい部位を3つに絞り、解説しました。川の流れでいうと上流、中流、下流です。下流(下部)に関しては中殿筋が腸骨稜に付着する部位に鍼が入る恰好になるので、中殿筋を緩めて中殿筋と小殿筋の間を走る上殿皮神経の圧迫を解除するという考え方もあります。

 この項目での発見は上殿皮神経が大腿後面まで伸びている人がいるということでした。この事を知ったので、上記の治療で大腿後面の痛み、痺れが取れるという現象を納得することが出来ました。ほとんどの人が上殿皮神経は上殿部で終わっているので、解剖の書籍は上殿部で終わる図版で書かれています。例えば小腰筋は欠損している人もいるように、組織の構成は個人差があることを念頭に置かなければいけません。

 実際の臨床では上記の治療で、ほぼ問題解決出来ています。
記事を書くに当たり、北京堂鍼灸横浜の藤井先生にはご指導いただき、ありがとうございます。

 中国の鍼灸書籍を読むことは臨床に大きく役立っています。

参考文献:无绪平 张天民,针刀医学临床研究,中国中医药出版社:2011.p388-391

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