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北京堂鍼灸伊東

五十肩(肩関節周囲炎)の治療法

五十肩の治療法
目次

概説

 この疾病は年配の女性に比較的多く見られ、青壮年の男性は比較的少なく、発症は緩慢です。この発病メカニズムに関しては多くの論争があり、ある専門家は「この疾病は肩周囲筋の解剖位置の微細な変化が誘因となり引き起こされ、合わせて6個の痛点がある」と訴えています。またある専門家は「この疾病は肩の軟部組織の退行変性があり、寒邪、湿邪が侵入し肩関節の関節包や関節周囲の幅広い慢性の無菌性炎症を引き起こし、軟部組織の幅広い癒着と肩関節の活動を制限する」と訴えています。そしてこの疾病は「凍結肩」や「凝り肩」と呼ばれることもあります。
 この2つの見方はどちらも道理があり、ただ認識の観点が異なるだけです。軟部組織の広範な癒着は使用する筋肉の動態平衡を失います。温湿布、局所麻酔薬の注射、鍼灸治療、吸い玉、外皮用薬、漢方薬、あん摩などの効果は理想的ではありません。曾氏は引き動かす手法を考案し、そのやり方とは全身麻酔を行い癒着を動かしながら引張るよう外力を加えます。しかし、術後に患者は関節周囲の極度な腫れと疼痛を訴え、腫れが消失後、機能訓練を行うと一定の効果があります。しかし、この方法は容易に健康な組織を傷つけるので、関節の弱い痛みが残存することがあります。

解剖

 肩関節周囲の筋肉は比較的多く、2層に分かれています。全面には上腕二頭筋があり、その長頭は上腕骨の結節間溝を通り関節窩上縁に付着します。その短頭は烏口突起に付着します。肩甲下筋は上腕骨小結節に停止します。上面には棘上筋があり、上腕骨大結節の最上面に停止します。後上方には棘下筋があり、大結節中部に停止します。後方には小円があり、上腕骨大結節最下面に停止します。棘上筋腱と肩峰の間に肩峰下滑液包があります。表層は三角筋で鎖骨外側1/3前縁、肩峰尖、外側縁、肩甲棘から起こり肩関節の上、前、後方、外側を覆っています。下方に向かうほど幅が狭くなり上腕骨の三角筋粗面に停止します。棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋は共同の腱を形作ります。

病因病理

 肩関節周囲炎の病因病理はこれまで諸説入り乱れています。軟部組織損傷の観点から説明すると、これは確かに発病後、炎症性の滲出、細胞壊死、軟部組織の増殖、痂疲(かさぶた)、癒着などの病理変化があります。しかし、この病因の研究では中医の認識は空虚な経脈から外邪が侵入して引き起こされるとしています。針刀医学の認識では肩関節周囲炎の根本的な病因は内分泌失調としています。この種の内分泌変化は平均して50歳前後に発生し、内分泌が正常に回復後、病が治るのです。このため、肩関節周囲炎の予後は良好で後遺症の出現は極めて少ないです。しかし、この病の経過は長く、苦痛も大きく、患者の生活や仕事に大きな影響を与えます。針刀医学と特殊な手技治療を組み合わせて苦痛から解放することができるのです。そして漢方薬により内分泌を調整し、肩関節周囲炎を根本的に治すことができます。

臨床表現

 患者の主訴は肩の痛みで髪をとかすことも出来ず、重度な人はいかなる場合も肩関節の活動制限を伴い、着替えも困難になります。時に疼痛は夜間に増悪し、睡眠に影響を与えます。
 肩関節周囲に圧痛があり、烏口腕筋と上腕二頭筋短頭の付着部である烏口突起、棘上筋の停止部、肩峰下部、棘下筋と小円筋の停止部に明らかな圧痛を認めます。

診断の根拠

1.患者の多くは40歳以上で、女性に多い。
2.肩関節の痛みは、一般的にその時間は長く、しかも進行性である。
3.外傷の既往歴が多くない。
4.肩を動かす時に明らかな筋肉の痙攣が出現し、特に肩の外転、伸展では著明である。

治療理論

 針刀医学による慢性軟部組織損傷の理論によると以下のことが分かります。およそ50歳前後の人で、内分泌失調があり、肩の代謝障害を引き起こし、代謝産物が堆積し関連する軟部組織を刺激して炎症反応を引き起こします。更に進行すると肩の血液循環に影響を与えて肩関節の動態平衡失調を発生させ、上記の臨床症状を引き起こします。
慢性期の急性発作時は肩の軟部組織の滑液が徐々に減少し、重度な場合は枯渇し、軟部組織の癒着形成を促進させ、いわゆる凍結肩となり、上記の臨床症状が増悪します。
 上記の理論により肩関節周囲の主な損傷筋肉は上腕二頭筋長短頭、肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、三角筋の起始停止部で、針刀を用いてこの付着部の癒着、瘢痕を剥離、削ると肩関節の動態平衡は回復します。そして漢方薬を用いて内分泌の調節を行い、病院を無くしこの病気は完治できるのです。

針刀治療

 針刀を用いて烏口突起の烏口腕筋と上腕二頭筋短頭の付着部、棘上筋停止部、肩峰下滑液包、棘下筋と小円筋の停止部を区別して切開剥離、縦行剥離を行い、肩峰下滑液包は突き抜けるよう操作し剥離します。肩関節周囲になおその他の明らかな圧痛点が有ったら、圧痛点の部位で針刀術を行うことも可能です。炎症が重度な人は強い消炎鎮痛薬25mgと局所麻酔薬120mgを肩関節の疼痛点注射を1回実施して、術後患者の肩を消毒し五积散に規定量の乳香を加えた漢方薬を服用してもらいます。決まった薬はありません。5日後、まだ治癒していないようなら、更にもう1度針刀治療を行います。通常は1~5回で治癒することが可能です。

手技治療

 針刀術後、患者をベッドの上に仰臥位(あお向け)に寝かせて患側肩を外転し、術者は患側に立ちます。助手は患肢を支え患者に充分リラックスするよう指示します。医者は片手で三角筋を背側方向へ押さえ、反対の手の親指を大胸筋に沿わせて上腕骨付着部まで押し進めて手を離します。大胸筋、小胸筋を分けてその後大胸筋(腋窩前縁)を肩峰方向へ押圧します。
 次に患者を腹臥位(うつぶせ)になるよう指示し、助手は患肢を支え医者は片手で三角筋を胸側に向けて押し、反対の母指で棘上筋、棘下筋、大円筋、小円筋の上腕骨大結節の停止腱を確認し、各々の腱境を確認します。この時患者の患肢は外転挙上30~50°増加し、医者は両手で患肢を支え患者に可能な限り外転挙上するよう指示し、最大角度まで達し、再び挙上できない時に、医者は両手で素早く挙上するように動かし、患者の反応があった時に手技が終わります。もし、患者が予め知っていたら、痛みを怖がり肩が緊張し、医者が動かしても挙がらず、容易に正常組織を損傷します。肩関節周囲炎の患者は上記のように針刀と手技療法を行い、肩の挙上は160°前後可能になります。
 上記のような介助手法は肩関節関節包の癒着をとり、正常な組織を損傷しない治療であり、あらゆる手技療法は概ね軟部組織を損傷せず針刀は重度な癒着部位を剥離し組織の硬さを緩め、手技は散在する三角筋深部筋膜と棘上筋、棘下筋、大胸筋、大小円筋の停止腱の癒着を緩め、最後の弾圧手技は最後の癒着部位(関節包内癒着)を緩めます。
 針刀と手技療法の後、患者の疼痛は基本的に消失し患肢の活動と機能も基本的には正常に回復します。

おわりに

 五十肩治療ですが、難渋することも度々あるかと思います。中国では医師が鍼灸を行うこともあり、重度なケースでは消炎鎮痛薬や局所麻酔薬の注射が一般的なことだと分かります。日本の整形外科では鍼灸師が勤めているクリニックは少ないですが、もし医師と共に治療できる環境であれば上記内容を基に医師と連携した治療を行うことで、重度な五十肩の治療は効果が期待できるのではないかと思います。
 肩関節の筋肉はとても多く、凍結肩ともなると癒着も広範囲となり、重度になるほど鍼や手技単体ではなく、組み合わせた治療の方が奏効する確率が高まるようです。
 癒着といっても筋膜間、関節包、関節包内と様々なケースがあり、それぞれ分けて考えアプローチするという考え方で進める、こういった細かい戦略が重要になる、というのが勉強になった点でした。
 手技をやるには筋の境を触り分ける技術が必須であることが分かるかと思います。

参考文献:朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002

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