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北京堂鍼灸伊東

腸腰靭帯損傷の治療法

腸腰靭帯損傷の治療法
目次

概説

腸腰靭帯イラスト後面

 腸腰靭帯は臨床上比較的多く見られ、多くは不十分な診断により誤診されてしまいます。
 腸腰靭帯は肥厚し堅くて弾力があるため、強力な外力を受けても完全断裂せず、局部的な損傷が発生する程度です。この靭帯は第4,5腰椎の強力な構造として安定しており、腸骨と第4,5腰椎を連結することで更に強固な構造となっています。第4,5腰椎は体幹応力が集中する部分であるので、腰部の屈伸、側屈時に腸腰靭帯は当然応力の影響を受け、このため損傷のリスクが高いのです。
 腸腰靭帯は第4,5腰椎横突起と腸骨稜内側の間にあり、骨性組織に覆われています。病変後に深部の疼痛があり病変部に触れようとしても届かないので、診断と治療を的確に行うのは困難になります。患者はこの病の後、治癒する人は少なく、多くが数年経っても治癒しないか、自己代償により修復され治癒するかです。

解剖

 腸腰靭帯は肥厚して硬くて弾力がある三角形の靭帯です。第4,5腰椎横突起から起こり外方に向かい腸骨稜内唇の後端部につき、※仙棘筋の深部にあります。腸腰靭帯は腰方形筋内側筋膜の肥厚部に覆われ、その内側と横突間靭帯と後仙腸靭帯相互に走行し仙腸靭帯は身体重量を制動することができます。第5腰椎は腸骨稜頂点のライン以下にあり、この靭帯は第5腰椎の回旋と前方すべり運動を制動します。

※仙棘筋:腸肋筋と最長筋を総称したもの

腸腰靭帯イラスト

病因病理

 腸腰靭帯損傷の主な要因は腰部の過度な屈曲、回旋、側屈により引き起こされます。急性損傷は比較的多く見られ疼痛発作を伴います。発症の多くは片側で、両側発症は比較的少ないです。はっきりした疼痛は片側に起こることが多く、両側起こるのは比較的少ないです。次第に慢性的な鈍痛となり、労作後に疼痛があり、休憩後は軽快します。慢性的な疲労損傷は長期にわたり過度な腰を曲げることが多い仕事に従事している人に多く見られ、多くは両側同時に発症し片側のみ発症は比較的少ないです。
腸腰靭帯損傷の主な病理変化は第4,5腰椎の平衡失調と腰部のこわばりです。

臨床症状

 第5腰椎両側或いは片側の深在性疼痛があり、患者はおおよその疼痛部位を指で示せますが、はっきりした痛点を指で示すことができません。腰部の屈伸、側屈、回旋活動に制限があります。重い物を運ぶ時に痛みの増悪を引き起こしやすいです。

診断の根拠

1.既往歴で腰部の外傷、労作性の損傷がある
2.第4腰椎と第5腰椎外側縁と腸骨稜内側の間に深在性の圧痛がある
3.患者に真っすぐ座ってもらい、患側を後方に体幹の向きを変えてもらうと、腸腰靭帯部分の疼痛が増悪する
4.その他の疾患を排除できる

治療理論

 針刀医学の慢性軟部組織損傷理論によると、腸腰靭帯損傷後に癒着、瘢痕、痙縮を引き起こし、腸腰靭帯部分の動態平衡失調を作り出し、上記の臨床表現を発生します。慢性期の急性発症時に病変組織は水腫から滲出した液体により末梢神経を刺激し症状が増悪します。腸腰靭帯損傷の部位は主に腸腰靭帯の起始部と停止部で針刀を用いて癒着を解消し瘢痕を削り、腸腰靭帯部の動態平衡失調を回復し、この疾病は根治に至ります。

針刀治療

 痛点が第4,5腰椎横突起に限局している場合は、第4,5腰椎横突起を基準に横突起末端の骨平面に針を進め、刃先のラインは仙棘筋と平行にして針体と背平面は垂直に刺入します。刃先が横突起の骨平面に届いた後、刃先を90°前後回転させ横突起の縦軸に対して平行にして、刃先を横突起頂点まで滑らせ針体は横突起縦軸に沿わせ、外側傾斜させ、針体と腰外側平面は30°にして、まず縦へ剥離をして、次に横へ剥離をします。そして針先を90°回転させ切開剥離を行い抜針します。その後、四角い滅菌ガーゼを当て片手で患側の腸骨稜を固定し患者に健側方向へ最大限の側屈を2,3回行ってもらいます。もし痛点が腸骨稜寄りであったら痛点近辺の骨盤辺縁に刺鍼し、刃先のラインと第5腰椎横突起のラインが平行で、針体は刺鍼部の皮膚に対し垂直に刺入し、骨面に到達後、刃先を腸骨稜辺縁の内側に進めます。そして針体を第5腰椎横突起方向に傾斜させ針体と内側皮膚平面は15°の角度で、刃先を腸骨稜内側の骨面に捻じりこむように入れ、まず縦へ剥離し、次に横へ剥離し、刃先を90°回転させ切開剥離を2,3回行い抜針します。その後四角の滅菌ガーゼを当て、片手で患側の腸骨稜を固定し、健側へ最大限の側屈をしてもらい疼痛が無いか確認します。

おわりに

 まず、タイトルにもある「腸腰靭帯損傷」という病名は医学書院の標準整形外科学第13版には書いてありませんでした。これが何を意味するかというと、日本国内ではほとんどの医療機関でこの問題は見過ごされているということです。鍼灸院では多くの場合、整形外科診療所で受診したが効果を感じなかったという方が多く来るので、いわば最後の砦となります。ですから、こういう病態があるということを知っているか、知らないか、知らないより知っていた方が効果的な施術が出来る確率が高まるわけです。海外の文献には宝が詰まっていると切に感じます。

参考文献:朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002

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